月7話 愛の日の招待状

街の喧騒が今はどこか遠くに感じる。

マーチアは依然として私から顔を背けたままで、気まずい沈黙が流れていた。

―――――

マーチア『あーあ、わかった、降参。もう聞かない!』

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(どうしよう。ちゃんと『マーチアだよ』って言えばよかった)

けれど声をかけても、マーチアにはぐらかされるばかりで…-。

〇〇「ごめん…-」

後悔の念が押し寄せ、自然と口からそうこぼれてしまった。

すると、ふわりと私の頭に手が乗せられて……

マーチア「君が謝る必要なんてないよ」

〇〇「マーチア……」

マーチア「オレの方こそごめんね。勝手に機嫌悪くしちゃって」

顔を上げると、マーチアがしゅんと眉尻を下げて私を見つめていた。

マーチア「オレ、君が愛を伝えたい人がいるなら上手くいくように応援するよ。 だって、君はそんな顔より笑顔の方がかわいいしさ」

私の頭をぽんぽんと軽く叩いて、マーチアが明るい笑顔を見せる。

マーチア「ほら、はやく行こっ。友達としてさ、楽しい時間を過ごそうよ!」

(友達……)

その言葉に、一層胸が痛み始める。

〇〇「マーチア、私は…-」

マーチア「はい、その顔はダメ!」

不意に頬を摘まれ、その痛みに目を見張る。

〇〇「マーチア……?」

マーチア「笑ってってば。じゃないと、オレ悲しいよ」

いつも通りのおどけた口調に、私はほっと息を吐き出した。

マーチア「あのねマーチア、さっきの話…-」

マーチア「はい、その話題もストップ!!」

頬を摘まむ力を強くして、マーチアが軽やかに笑う。

(想いを伝えたいけど……今は、無理みたい)

マーチア「あ、ごめん。痛かった……?」

〇〇「ううん、平気」

頬から手が離れることを寂しく思いながらも、私は彼に笑いかける。

(愛の日当日に、ちゃんと気持ちを伝えよう)

伝え損ねた思いを胸に大切にしまいながら、私はそう決心したのだった…-。

……

滞在先に帰ってきた私達は、廊下を二人無言で歩き始める。

マーチア「あのさ、〇〇ちゃん」

私の部屋の前まで来ると、居心地悪そうにしつつもマーチアが口を開く。

けれど…-。

マーチア「ううん。やっぱりなーんでもない!」

〇〇「えっ……」

マーチア「じゃあね! おやすみなさーい!」

私が止める間も無く、マーチアは飛び跳ねるようにして行ってしまう。

私はあっという間に小さくなる背中を、ただ見送ることしかできなかった…-。

……

翌朝…―。

陽の光が差し込む部屋で、私はベッドの傍らの机に向かう。

(マーチア……昨日、なんて言おうとしたんだろう)

(ううん。彼がなんて思っていようと……)

ペンを手に取って、雪のように真っ白な封筒を取り出す。

そして、『招待状』の三文字を慎重に記した。

(今度こそちゃんと伝えたい。私の気持ち…-)

宛先はマーチアの部屋で、日付は愛の日に設定する。

私は脳裏に彼の笑顔を思い浮かべながら、一心にペンを走らせたのだった…-。

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