月SS 真っ白な封筒

月明かりが差し込む城の廊下に、二人分の足音が響く。

オレと〇〇ちゃんは無言で歩き続けて、彼女の部屋の前で立ち止まった。

―――――

マーチア『君はさ、愛の日に好きって言いたい人、いるの? ねえ……教えてよ、〇〇ちゃん』

〇〇『私は…-』

―――――

(あんなに言いにくそうにしちゃって)

(あ~あ。期待してたんだけどなあ……)

(〇〇ちゃんは誰にでも優しいって。そんなこと知ってたはずなのにさ)

〇〇ちゃんのかわいい笑顔を思い出すと、いつだって心が温かくなる。

(だからこそ、オレは…-)

マーチア「あのさ、〇〇ちゃん」

(オレは、〇〇ちゃんのことが……)

口を開きかけた時、〇〇ちゃんは、困ったような顔でオレの顔を見つめ返していて…-。

胸の奥がぎゅっと掴まれたみたいに痛くなって、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

マーチア「ううん。やっぱりなーんでもない!」

オレは慌てて、〇〇ちゃんに向けて笑みを作った。

〇〇「えっ……」

(これ以上、〇〇ちゃんを困らせるのは……嫌だから)

マーチア「じゃあね! おやすみなさーい!」

何か言いたげな彼女を振り切るように、オレは走り出していた…-。

……

翌朝、まぶしい日差しが滑り込む。

オレは掛け布をかぶり直し、明るい外の光を遮断した。

(はあ……何もする気にならないなあ)

(オレって、オモシロおかしいことが大好きなはずなのに)

すると扉の向こうから、心配したような声が届いた。

従者「マーチア様。朝食のお時間ですが……」

マーチア「いらなーい」

従者「マーチア様の好きな、ターキーを挟んだパンですよ」

マーチア「気分じゃなーい」

従者「温かい紅茶もご用意しております」

マーチア「……」

諦めたのか、従者が扉の向こうで小さく息を吐いた。

従者「〇〇様からお手紙が届いておりますので、起きられましたらお読みください」

マーチア「だからいらな……えっ!?」

(〇〇ちゃんから!? なんで?)

頭の中が大混乱になりつつ、オレはベッドから飛び起きて扉へと走る。

従者が手にしていたのは、綺麗に封蝋が施された真っ白い封筒だった。

マーチア「ほんとに〇〇ちゃんから?」

従者「はい。そのようにうかがっております」

オレは奪うように手紙を手に取った。

マーチア「どうしてオレに……」

彼女の気持ちがわからないまま、恐る恐る封筒を切る。

マーチア「『愛の日にお茶会をしませんか? おいしいお茶を用意してお待ちしております』。 ……」

(愛の日に……?)

丁寧な文字で書かれた文章を、何度も何度も読み返した。

マーチア「好きなヤツと一緒に過ごすんじゃないの?」

手紙の文章を見つめてみても、やっぱり意図を汲み取れない。

オレはしばらくうんうんと頭をひねって考えて、一つの答えにたどり着いた。

マーチア「……失恋しちゃった……?」

そうつぶやいてみたら、ふつふつと怒りが込み上げてきた。

マーチア「〇〇ちゃんを振るなんて、どんな男だよ! 見る目なさすぎ。いい女を知らないつまんない男に決まってる。 あんなに笑顔が素敵ないい子、そうそういるわけないのに!! はぁ~~~、バッカな男!!」

一気にまくし立てたからか、息が上がった。

そんなオレを、扉の陰から従者が恐る恐る覗く。

従者「……お返事はいかがされますか?」

マーチア「……」

(〇〇ちゃん……大丈夫かな)

悲しんでいる彼女の姿を想像すると、胸がちりちりと痛んだ。

従者「マーチア様……」

(……悲しい顔なんて、見たくない)

(彼女は笑った顔が一番素敵なんだ。いつだって笑顔でいてほしい)

従者「また、後ほどうかがいますね」

オレが頭を悩ませている間に、従者は扉を閉めて静かに立ち去った。

静かになった部屋で、オレはぽすんとベッドに腰を下ろす。

(失恋した者同士か。なんか、変な感じ)

昨日からずっと痛み続けている胸を、そっと押さえた。

(けど、オレが今できることは……)

マーチア「……待っててね、〇〇ちゃん。 ぜーーったい、笑わせてあげるから!」

(君が誰を好きだって、オレのこの気持ちは変わらない)

新たに芽生えた決意を胸に、オレは窓の外を睨む。

ここから見える空は憎らしいほどに青くて、綺麗だった…-。

おわり。

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