月7話 誘惑の尻尾

食べかけのお菓子が、フォーマの手から畳へと落ちる…―。

フォーマ「ううっ……」

○○「フォーマ、大丈夫!?」

突然のことにどうしたらいいのかわからず、うずくまった彼の背中をさすることしかできない自分がもどかしい。

(どうしよう……私が持ってきたお菓子のせい?)

不安な気持ちになっていた、その時……

フォーマ「落ち着いて……大丈夫だ。 少し体に違和感を覚えたが、もう…―」

フォーマが、ゆっくりと顔を上げた。

そこには……

○○「えっ!?」

フォーマ「……ん? 僕の顔がどうかした?」

○○「あ……頭……」

彼の頭には、ふんわりとした毛並みの耳が生えていた。

フォーマ「頭? ……!?」

フォーマが頭の耳に触れた時、彼の腰のあたりからするりと動く青いものが見えた。

よく見ると、それは……

○○「尻尾……?」

フォーマ「まさか、そんなはずは…―。 ……!」

言葉を失う彼が、部屋の隅に置かれた鏡台を見る。

鏡には、明らかに青ざめている彼の姿が映っていた。

フォーマ「なんだ……これは……。 まさか、さっきの菓子か……? だが、毒の類ならばすぐにわかるはずだ。何より僕に効くはずがない」

○○「お裾分けしてくれた従者さんは、特に何も言ってなかったけど…―」

フォーマ「とにかく、話を聞きに行こう」

私達は慌ただしく部屋を飛び出し、お菓子をくれた従者さんを探す…―。

……

従者さんを見つけお菓子について聞いてみたものの、彼には理由がわからないとのことで……

従者さんが連れてきてくれたおじいさんから話を聞いた私達は、再び部屋へと戻って来た。

フォーマ「まさか、そんな実があるなんて……」

今まで天狐の国の人間以外が、あの木の実を口にすることはなかったらしく、他国の人が食べるとどうなるかは、わかっていなかったらしい。

フォーマ「しかし、あの従者には悪いことをしてしまったな」

○○「そうだね……」

天狐の国には他国の人が来ることは滅多にないため、実のことはあまり知られておらず……

従者さんは、顔を青くしながらフォーマに頭を下げていた。

フォーマ「あんなに謝らせてしまって気の毒だった」

○○「……フォーマは優しいね」

フォーマ「別に、普通だよ」

さらりと言うフォーマの尻尾が、ゆらゆらと揺れている。

彼の頭にある耳も、時折ぴくりと揺れていた。

(かわいいな)

思わず頬が緩んでしまいそうになったけれど、必死にこらえる。

フォーマ「少し座りにくいな……」

尻尾が邪魔なのか、フォーマは腰を何度か浮かせて座り方を変えていた。

揺れる尻尾が愛らしくて、手を伸ばしたい衝動に駆られてしまうけれど……

(フォーマが大変な時に、そんなことしたら駄目だよね)

ふさふさの尻尾を、私は少し残念な気持ちで見つめていたのだった…―。

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