月最終話 お前だけの騎士

近衛兵の隊長だったというおじいさんに出会った翌日…-。

私達は予定通り、花誓式に出席していた。

(もっと緊張するかと思ってたけど、なんだか逆に気持ちが安らぐような……)

神聖な雰囲気の中で執り行われる式典は、代表であるリオンくんの人柄ゆえか、厳かながらも柔らかな空気の中、進んでいった。

シュニー「……」

(シュニー君……さすがだな)

背筋を伸ばして式典の様子を見守るシュニー君の姿は、一国の王子にふさわしい堂々としたもので、彼を見ていると、私まで気が引きしまる思いだった。

(私も最後まで、しっかり見届けなきゃ)

そう思って前を向くと、ちょうどリオンくんが剣を手に祭壇へと向かうところだった。

(あれが大地と水の女神様に献上する、忠誠を込めた剣…-)

そして、リオンくんが剣を掲げ跪くと……

その刹那、神々しくも温かな光が辺りに満ちていく。

(優しい光……)

女神様の祝福を感じ、幸せな気持ちが胸を満たした…-。

……

式典が終わり城に戻ると、辺りはもうすっかり夕陽の色に染まっていた。

〇〇「花誓式、素敵な式典でしたね」

シュニー「うん……」

〇〇「……シュニー君?」

何か考え込んでいるシュニー君の顔を覗くと、彼は私の目をじっと見つめておもむろに口を開く。

シュニー「あの光が満ちた時、なんだか温かい気持ちになった気がした」

〇〇「私もです。皆さんの気持ちが届いて、女神様が喜んでいるように感じました」

シュニー「……」

(あれ? 私、何か変なこと言っちゃったかな)

シュニー君のきょとんとした表情に、思わず少し身構える。

シュニー「忠誠を誓われたら、喜ぶものなの?」

〇〇「え?」

シュニー「だって、臣下が忠誠を誓うのは当たり前のことだよね」

王子として育ったシュニー君らしい疑問に、どう言葉を返すべきか迷う。

(なんて言えばいいんだろう?)

忠誠の中にある人々の想いをどうにか彼に伝えたくて、私は必死に考えを巡らせた。

〇〇「上手く言えないんですけど……。 忠誠を誓うことは、大切な人と約束をすることなんじゃないかって思うんです」

シュニー「約束?」

〇〇「大切な人を思い、守り、これからも一緒に歩んでいくという約束……です」

まだ目を丸くしたままのシュニー君に、私はもっと上手く伝わる言葉はないかと考える。

けれど、その時…-。

シュニー「……お前は?」

〇〇「え?」

シュニー「僕が忠誠を誓ったら、お前は嬉しいの?」

(シュニー君が、私に?)

〇〇「それは……はい。そんな約束ができたら嬉しいです、けど……」

シュニー君が花誓式のように跪いて忠誠を誓う姿は想像できない。

けれど彼は私の考えを読み取るかのように、ふっと大人びた笑みを口元に浮かべた。

シュニー「……一度しかやらないからね」

(……?)

私が首を傾げるより前に、彼は一歩後ろに下がって……

〇〇「……!」

胸に手をあてて、騎士のように跪いたシュニー君が私を見上げる。

シュニー「僕はお前だけの騎士だ」

〇〇「え……」

シュニー「僕の女神……。 どんな時も、僕は貴女をすぐ傍で守ると……ここに誓います」

真摯な言葉とまっすぐな視線に射貫かれて、胸が甘く高鳴る。

〇〇「シュニー君……」

まっすぐに私を見つめる赤い瞳には、温かな光が灯っていて……

(まるで本物の騎士みたい)

そんなことを考えて、ただ立ち尽くしていると…-。

シュニー「……何、ぼけっとしてるの?」

小さく笑って、シュニー君が立ち上がる。

〇〇「だ、だって……」

動揺して思わず口ごもる私に、彼は一歩近づくと耳元に唇を寄せた。

シュニー「言っておくけど……今の言葉は、嘘じゃないよ」

吐息にくすぐられて胸が大きく打ち鳴り、頬が一気に熱くなってしまう。

シュニー君はそんな私を満足そうな顔で見つめた。

シュニー「その顔、言葉だけじゃ足りないってこと?」

〇〇「っ……」

思わず息を呑んだ私に、彼は小さく笑みをこぼすと……

熱い頬に、甘い誓いのキスを落としたのだった。

おわり。

<<月5話||月SS>>