月7話 記念のスパークリング

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グレアム「まあ、いいよ。どちらにせよ、ここが本当のエンディングだ。 筋書き通りなら、この部屋で犯人を暴く予定だったからね」

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(本当のエンディングって、一体どういうことだろう……?)

不思議に思いながらグレアム君の様子を伺うと、彼はまるで大事件に挑んでいるかのように、緊張した面持ちで深呼吸をしていた。

グレアム「とりあえず……どうぞ」

グレアム君が、そっと私に手を差し出す。

(……? エスコート、してくれるのかな……?)

○○「ありがとうございます」

差し出された手に、そっと自分のを重ねる。

その瞬間、グレアム君の手が微かに震えていることに気が付いた。

(グレアム君……もしかして、緊張してる?)

グレアム「……」

○○「グレアム君?」

グレアム「いや、そんなはずはない。不可能だろうが可能になる。 俺は天才作家だ。たとえ経験のない状況だって、俺は構成し想像することができる。 緊張なんか……緊張なんか、するはずがないし、する必要もない」

突然、早口で独り言のように話し始めたグレアム君は、その勢いのまま、ぎょっと私の手を握り締める。

グレアム「……こっち、来て」

何も言えない難しい顔をして、グレアム君はぽつりとつぶやいた。

○○「はい」

手を引かれてテーブルまでやって来ると、グレアム君がそっと椅子を引いて座らせてくれる。

ふと視線をやると、テーブルの上には、スパークリングワインのボトルとフルートグラスがあった。

(慣れていないみたいだけど……おもてなしをしてくれてるってことかな?)

そんな彼の様子を見て、ふと私の頭に文学賞の受賞パーティのときのことが過ぎった。

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グレアム「この運命はすでに宿命であり、当然の結果だからね。この賞は取るべくして取ったものだ」

○○「え……?あの、どういうことですか?」

グレアム「……よし……完璧だ」

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(もしかして……少し大仰な言葉を使っていたのは、大人びてみせたかったからなのかな)

そう思うと、くすりと笑みがこぼれた。

グレアム「……何。顔が笑ってるけど。 俺、何も変なことしてないよね?してるはずがないよね?」

○○「はい、大丈夫ですよ。嬉しかっただけなので……」

グレアム「そうか?それなら、いいけど……」

グレアム君は、どこか釈然としない顔をしながらも、頬を赤く染め……

少しの間の後、気を取り直したように、ワインボトルを手に取った。

グレアム「このスパークリングワイン、受賞記念にもらったんだ。 俺は飲めないけど、お前に飲ませてやる。感想を教えて」

そう言うとグレアム君は、慣れない手つきでスパークリングワインを開けた。

そして、グラスに注いでくれるのだけれど……

(あ、こぼれそう。大丈夫かな?)

グレアム「違う。これは、違う。 動揺なんてしてるはずがない。こんなことは、いつも従者がやってるから慣れていないだけだ」

(つまり、動揺してるんだ)

それでも頑張るグレアム君を見て、微笑ましい気持ちでいっぱいになる。

すると……

グレアム「……また顔、笑ってるけど。何がおかしいわけ?」

○○「あっ。ご、ごめんなさい。一生懸命なグレアム君が、微笑ましかったというか……」

グレアム「微笑ましい?……もしかして、俺のこと子ども扱いしてる?」

○○「い、いえ!そんなことは……」

慌てて否定するものの、グレアム君はどこか疑わしげに私を見ていた。

グレアム「……まあいいや。それよりも、早く飲んでみて」

○○「あっ、は、はい。ありがとうございます」

そっとグラスに唇を寄せて、ひと口、口に含む。

(あ……飲みやすくて、とっても美味しい)

○○「すごく美味しいです。ありがとうございます、グレアム君」

慣れないエスコートに、おもてなし……色んなことが嬉しくて、笑顔でグレアム君に伝えた。

けれども……

グレアム「違うのに」

不意に、グレアム君の瞳が鋭くなった。

グレアム「またそうやって、大人ぶった笑顔を見せて……。 ……やっぱり俺のこと、子どもだと思ってんだな。 お前を驚かせる計画も失敗した……愚かな子どもだって」

○○「え……?そんなこと…―」

グレアム君の言葉を否定しようとした、次の瞬間……グラスを持つ私の手に、彼の手が重なった…―。

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