月最終話 誰も彼もが虜になって

パークにあるウィルさんの新作映画を題材にした、ホラーレストラン…―。

プレオープンの本日、最初のゲストがついに訪れた。

ウィル「……」

ウィルさんはメニューの仕込みをしながらも、ホールの方をチラチラと見やる。

○○「気になりますか?」

ウィル「そりゃね、僕の映画が好きなゲストがやってきてくれてるんだから」

○○「そうですよね……」

(本当は、誰よりもウィルさんが一番見たいはずなのに)

けれどウィルさんは大忙しで、もうずっと手を休める暇がないままだった。

○○「私、行ってきます」

ウィル「○○が?」

意外そうに瞳を瞬かせるウィルさんに、私は強く頷いた。

○○「たぶん、私が一番お客さんとしての感覚に近いと思いますし……」

(ウィルさんのお手伝いがしたい)

ウィル「そっか……ありがとう!じゃ、さっそく…―」

ウィルさんは私の肩を押してホールへ足を促した。

すると…―。

○○「!!」

ホール近くまで来ると、誰かの悲鳴がどこからか絶え間なく聞こえてくる。

(早まった……かな)

ウィル「怖い?」

私の声にならない声を聴いて、厨房へ戻ろうとしたウィルさんが顔だけを振り向かせる。

○○「だ、大丈夫です!」

私はエプロンを締め直し、不安を抱きながらホールへと向かった…―。

厨房を出るとさっそく、誰かの悲鳴が響き渡った。

(やっぱりちょっと怖いけど……しっかり見ないと)

(エントランスの方は……)

部屋に下げられたカーテンの影から外をうかがってみる。

目の前の通り過ぎる招待客は、館のトラップにかかって顔を真っ青にしていた。

(あの執事さんかな……私も本当にびっくりした)

今度は場所を変え、テーブルの並んだホールへ向かう。

そこでは血文字で書かれたメニュー表を見て震える二人連れがいた。

(どんなところにも、仕掛けがある)

ホールを見渡すだけでも、ホラー監督であるウィルさんの拘りがうかがえる。

(皆、本当に驚いて……怖がってる)

顔を引きつらせる人達に申し訳ないと思いながらも……その様子を見て、私はなんだか嬉しくなった。

(大成功だ……!)

その後もホールをぐるりと見渡して人々の様子を観察してから、ウィルさんのいる厨房へ続くカウンターへと戻った。

すると…―。

ウィル「どう?お客さん達、楽しんでる?」

ウィルさんが厨房から出て、カウンターまでやってきた。

○○「ウィルさん!厨房はいいんですか?」

ウィル「今、ちょうど最初の皿を全部出し終えたとこ。それより店の様子は?」

よほど気になるのか、眼鏡の向こうで緑色の瞳が輝く。

○○「はい、ホールはすごい賑わいですよ! 皆、すごく怖がってます」

ウィル「ふふっ……いいね!それは企画冥利に尽きる」

ウィルさんがニヤリと口角を上げながら、カウンターに片肘をつく。

○○「中には、ちょっとかわいそうなくらい怖がってた人もいましたけど……」

ウィル「ここはホラーレストランだよ?怖がってこそ!じゃないか?」

○○「……そうですよね」

相槌を打つと、身を乗り出したウィルさんの顔が間近に迫って……

○○「!」

お客さん達の悲鳴の中、ウィルさんは私の唇にキスを落とした。

○○「あ、あの……ウィルさん?」

ウィル「なんだい?君、顔が真っ赤だけど……」

○○「だ、だって今…―」

そっと視線を逸らせば、ホールにいる来賓の方達が目に入る。

全員が漏れなく、ウィルさんの手がけたホラーレストランの虜になっていた。

(やっぱり……ウィルさんはすごい人だ)

不思議な高揚感が、私の胸をドキドキと熱く鳴らす。

すると、愉快そうに小さく笑うウィルさんの声が私の耳に届いた。

ウィル「女の子は怖がる顔が一番って思ってたけど、君を見てると新しい魅力に気づかされるよ。 そうやって赤い顔をして小さくなられると、何だかゾクゾクしてきちゃう……!」

眼鏡の奥の瞳が、ホールに灯る微かな光を浴び、妖しさを湛えている…―。

○○「え…―」

その時、厨房から声がかかった。

コック「魚料理上がりました。ウィル監督、盛り付けの確認お願いします!」

ウィル「どれどれ……は~い、オッケー!」

若いコックが差し出した皿を見て、ウィルさんがOKサインを出す。

○○「完璧に厨房を仕切って……すごいです」

ウィル「褒めてもらえて嬉しいな。こう見えて映画を撮る以外にも、結構器用なんだよ。 ……惚れ直しちゃったり?」

○○「え…―」

そう言って得意げに笑う彼は、これまでで一番満足そうだった。

○○「わ、私、この料理テーブルに運んできましょうか?」

ウィル「頼むよ、お客さんの反応も後でまた報告よろしく♪」

からかうように、彼は私に向かって片目をつむる。

○○「っ、行ってきます!」

高鳴る胸の鼓動が収まらない。

けれどそれは、ホラーレストランの恐怖によるものではなく……

甘い響きをはらみながら、もどかしいリズムを刻んでいたのだった…―。

おわり。

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