月最終話 とらわれの……

ディオンさんの頬に、キスを落とした後…-。

ディオン「……〇〇」

柔らかな日差しが窓から注がれるのに、ディオンさんの眼差しに、背筋がなぜかぞくりとする。

その時…-。

メイド「〇〇様、お部屋のお掃除に参りました」

外から声がして、私はとっさにベッドから立ち上がって隠れる場所を探した。

ディオン「……何してるんだ」

〇〇「だって、メイドさんが……」

ディオン「おかしな奴だな。悪いことをしている訳でもないだろう」

(それは……たぶんそうなんだけど)

ディオン「俺は今朝も来ていたわけだし……人の視線など、気にすることはない」

(ずっと王子様として育ったディオンさんには、もしかしたらそうかもしれないけど……)

〇〇「でも、私…-」

メイド「失礼致します」

〇〇「……っ、とにかく、隠れてください」

そう言って私は、ディオンさんをクローゼットに押し込んでしまった。

メイド「〇〇様っ! 申し訳ありません。お留守かと思って……」

〇〇「いえ、気にしないでください。 お掃除ありがとうございます」

クローゼットを背に、何とか微笑みを貼り付ける。

そうしてメイドさんが少し離れていくと……

〇〇「あ……っ」

長い腕が腰元に巻き付き、私はクローゼットの中に引き込まれてしまった。

〇〇「ディ…-」

声を出しかけた私の唇に、人差し指が押しあてられる。

ディオン「人目が気になるんだろう?」

声を潜めて言って、ディオンさんが微笑む。

ディオン「こんな所を見られたら……あのメイドはどう思うだろうな」

〇〇「……っ」

ディオン「せいぜい声を出さずにいられるよう、頑張ることだ」

ディオンさんは、私の頬をそっと撫でる。

〇〇「や……」

(いけない……)

私は自分の口で手をふさぐ。

ディオン「……いい子だ。 まあ、今はこれで良しとしよう」

ディオンさんはにっこりと笑い、それ以上無理強いすることなく、そっと私を抱きしめた。

胸の高鳴りは抑えきれなくて……

〇〇「ディオンさん……私…-」

私は、ディオンさんに、そっと耳打ちをする。

ディオン「……!」

暗闇の中、ディオンさんが私の唇を奪った。

〇〇「ん……っ」

これが、悪魔との契約のキスだった…-。

……

数日後…-。

(夢か現実か分からない……)

目を開けると、窓から月明かりが差し込んでいる。

数日前にクローゼットの中で気持ちを伝えてから、ディオンは私を片時も離してくれない。

(今は、いつなの……?)

(何日ここにいるんだろう……)

瞬きをしていると、ディオンの腕が絡みついて……

ディオン「〇〇……」

この上なく愛しげに、私の名前を呼ぶ。

(また……ディオンに逆らえなくなっちゃう)

(そろそろディオンだって国議にも出ないといけないのに……)

その腕をそっと解くと、私は足音を立てないようにベッドから下りた。

(気づかれないうちに、お部屋から出ないと)

足を踏み出すと、突然に手首を掴まれる。

ディオン「……どこに行く?」

音もなく後ろに立ったディオンは、驚くほど冷たい声を出す。

〇〇「ディオン……私、そろそろ行かなくちゃ」

驚きながらも何とかそう言うと、ディオンは悲しそうな瞳で私を見据える。

ディオン「どこにも行かないでくれ……」

困ってその瞳を見つめ返すと、ディオンの腕が私の腰を持ち上げる。

〇〇「や……っ」

テーブルに私の腕を押さえつけて、ディオンは震える声で私に囁きかける。

ディオン「俺の過去を受け入れてくれたのは、お前だけだ。 一人に……しないでくれ……」

(そんなこと言われたら)

(行けない……)

ディオンの唇が、私の鎖骨のくぼみに落とされる。

〇〇「……っ」

その唇はやがて私の唇にたどり着き、ディオンの指が私の内ももをたどった。

〇〇「あ……っ」

ディオンがそっと私の胸元に手を伸ばした時……

〇〇「お願い…ディオン、もう私……」

私はどうにか言葉を紡ぎだす。

ディオン「お前がいれば、他に何もいらない。 大事にするから。 〇〇……」

切ない声が私の胸を震わせ、身体から力を奪っていく。

(ディオンの夢の中に……閉じ込められてしまったみたい)

(それも……いいのかもしれない)

どこか遠くで美しい音楽が鳴っている。

その音を聞きながら、私はそっと瞳を閉じた…-。

おわり。

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