月最終話 怒りの火炎

ダルファー「キミを攫いに来たんだよ」

いきなり部屋に訪れたダルファーに抱き上げられて、夜の空を飛び始めた。

怖くて目を開けられずに、ぎゅっと閉じていると……

ダルファー「怖がらないで。ほら、目を開けてごらん。夜景が綺麗だからね」

まつ毛を揺らすくらい、近い距離で囁かれる。

〇〇「……っ」

ゆっくりと目を開けると……

〇〇「わぁ……」

美しい街のきらめきが、視界に飛び込んできた。

(すごい……なんて幻想的なんだろう)

西の空には月が細く傾いており、東の空を見ると黄金色の流れ星が横切っていく。

そして何より……

まるで黒いベルベットの布の上に、ぽつぽつと淡い光を揺らめかせる街の灯りの美しさに息を飲んだ。

ダルファー「言った通りでしょ?」

〇〇「こんな綺麗な夜景は見たことがありません」

ダルファー「うん。皆、そう言う」

皆という言葉に、少し胸が疼いた。

ダルファー「だからキミにも見せてあげたかったんだ。一番綺麗な僕の国を、ね」

〇〇「ダルファー……」

流れる夜風が冷たくて、私は体を震わせた。

ダルファー「……寒いかな。もう降りようか」

ダルファーが、私を深く抱き直す。

密着する部分が増えて、暖かいけれどなんだか恥ずかしい。

(羽に包まれてるみたい……優しい腕……)

その温もりが心地良くて、自然とダルファーの胸に顔を寄せた…-。

……

やがて、私達は地面にゆっくりと着地した。

〇〇「あっ」

地面に足がついたものの、まだ揺れているような感じがして、ぐらついてしまう。

ダルファー「危ないよ。しばらくこうしておこう」

ダルファーに手を握られながら、ぼんやりと明るい街灯の列の下、ゆっくりと歩いていく。

(もう地面についてるはずなのに、まだふわふわしてるみたい)

夢を見るような気持ちで、空中散歩の余韻に浸っていると……

??「おい、久しぶりだな。ダルファー王子。よくもオレの恋人を奪いやがって!」

いきなり、目の前に柄の悪そうな男が立ちふさがった。

ダルファー「……誰のこと?」

ダルファーが、本気でわからないというように肩をすくめる。

男性「しかも、すぐに捨てやがっただろ! むかつくやつだ」

ダルファー「それはないよ。僕はいつも振られる方だからね」

男性「うるせえ、今だってちゃらちゃらと女連れじゃねえか……ちょっと顔を貸せ!」

ダルファー「嫌だな。僕は争いは苦手なんだ。他の人を相手してくれよ。じゃあね」

ダルファーは全く相手にしないで、私の手を引きながら通り過ぎようとした。

そのことが、相手を余計に刺激したようで……

男性「待てよ!」

〇〇「え……!」

いきなり二の腕を掴まれ、強引に体を引かれる。

ダルファー「……!」

ダルファーの手が離れ、私は地面に倒れ込んでしまった。

〇〇「痛っ……」

肘と膝を強く打ちつけ、そこから血が滲んでくる。

男性「ふ……ふんっ、いい気味だ!」

男性がそう言って、せせら笑った時…-。

ダルファー「キサマ……」

急に、冷えていた辺りの温度が上がった気がした。

(な、何? ダルファー……!?)

ダルファーの翼が総毛立つように上に向かって広がっていく。

驚いている間に、ダルファーの背後から炎が噴き上がり、辺り一面に業火が渦巻いた。

(どういうこと……!? ダルファー!?)

あまりの炎の熱に、私はごくりと息を飲んだ。

ダルファー「汚い手で〇〇に気安く触れた挙句……なんてことしやがった……!」

目は吊り上がり、憤怒の表情は泣いている子どももピタリと黙りそうな形相をしている。

ダルファー「焼き尽くしてやろうか……一瞬だよ?」

男性「あ……あ……あわわ」

男性はすっかり震え上がって、腰を抜かしたのか四つん這いになりながら逃げていった。

ダルファー「ふん……」

ダルファーが羽を閉じると、それと同時に炎も消えていく。

(あ、元の夜の町……)

静かになったところで、くるりとダルファーが私へと振り返る。

その表情は、もうすっかり穏やかで……

ダルファー「やだなあ、僕、暑苦しい男って嫌いなのに。 ……久しぶりにキレちゃった。 でも、キミを傷つけるやつは、いつだって消し炭にしてあげるから」

そんなことをにっこりと笑顔で言われても簡単には、頷けない。

―――――

ダルファー『まあ……人が離れていく原因は、他にもあるみたいだけどね』

―――――

私の頭に、あの時のダルファーの言葉が過る。

(と、とにかく、ダルファーは怒らせたらいけないんだ……)

ダルファー「さ、部屋に送っていくよ」

そう言って差し伸べられた手に恐る恐る手を重ねる。

いろんな顔を持つダルファーには、驚かされてばかりだけど……

ダルファー「~~♪♪」

その歌声に、私の心はやっぱりどうしようもなく惹きつけられてしまうのだった…-。

おわり。

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