月SS 愛おしさが溢れて

〇〇を連れてやって来た聖堂内は、どこまでも深い暗闇に包まれていた。

(早く明るくしてやらねえと)

そう思いながら、翼を広げて舞い上がる。

(……ここが一番上だな)

目が慣れてくると微かに銀色の燭台が見えて、オレはその上のろうそくに慎重に火を灯した。

一つ、また一つと火を点けると、橙色の光が柔らかく聖堂を照らし出して…-。

アディエル「お待たせ」

最後のろうそくに火を点け、ゆっくりと彼女のところに戻っていく。

(〇〇……?)

薄明りに照らされながら、彼女はぼうっとした様子でオレのことを見上げていた。

アディエル「〇〇? どうした?」

〇〇「いえ。すごく綺麗で、感動して……」

(……よかった)

(お前のその顔が、見たかったんだ)

翼をはためかせ、オレは〇〇の前へ降り立つ。

アディエル「だろ? 本当は、演奏会当日まで秘密にしておく予定だったんだけどな。 お前、早く見たいって言ってたから……さ」

照れ隠しに軽く笑って見せると、〇〇は瞳を潤ませたまま、オレをまっすぐに見つめた。

〇〇「ありがとうございます……アディエルくんが言ってた通り、すごく綺麗ですね。 それに、アディエルくんも……」

思いもよらない言葉に、驚きでつい目を見開いてしまう。

アディエル「え? オレ……?」

〇〇「はい。アディエルくんが聖堂を飛ぶ姿が、なんだかとても神秘的で……。 さっき降りてきた時なんて、まるで絵画みたいに綺麗で、見とれちゃって」

彼女は恥ずかしくなったのか、少しだけ目を伏せて、でも幸せそうに微笑んで…-。

(綺麗なのは……お前の方だ)

清らかな笑みの前に、オレはもうずっと自分が遠ざけていた『幸せ』というものを感じていた。

(……嬉しすぎる)

(そんな顔見せられたら、オレ…-)

アディエル「それはオレの台詞だって。 今夜のお前……いつも以上に綺麗だ」

溢れる思いが口を突いて飛び出してくる。

言葉だけでは足りない気がして、オレはそっと〇〇の髪に指を滑らせた。

〇〇「アディエルくん……?」

一点の曇りもない瞳に見つめられ、心の中に渦巻いていたものが溶けていくような気がして…-。

アディエル「……さっきオレさ。自分は幸せになっちゃ駄目だって思ってたって言っただろ? 少しずつ良くなってるとはいえ、まだまだ黒い羽の奴らは苦しんでる。 そんな中でオレだけが幸せになるわけにはいかないって思ってたから」

〇〇「そんなこと…-」

アディエル「何度ルシアンにそうじゃないって言われても、納得できなくて」

(オレ、ほんと馬鹿だよな……)

思わず苦笑いが口元に浮かぶ。

けれど彼女は真剣に聞いてくれて、オレはそれに背中を押されて、言葉を紡いだ。

アディエル「けど、お前の笑顔を見てたらわかったんだ。それは違うって」

〇〇「え……?」

(お前のことを好きになって、初めて気がついた)

(この想いに気づかなかったら……オレはずっと、変われないままだった)

アディエル「大事な奴が苦しんでる世界なんて、誰も望まない。 この幸せを皆が手に入れられるようにしなきゃ駄目なんだよな」

オレは〇〇の目をまっすぐに見つめ返す。

〇〇「はい……」

彼女もまた、柔らかい笑みを浮かべ、しっかりと頷いてくれて…-。

〇〇「……今日アディエルくんと過ごして、わかったことがあるんです。 私、アディエルくんと笑い合えることを……すごく幸せに感じるって」

(〇〇……)

想いが通じ合ったことがこの上なく幸せで……オレは〇〇のことを抱きしめた。

アディエル「オレ、〇〇のことが好きだ。 大切なことに気づかせてくれて、ありがとうな」

〇〇「私も……アディエルくんのことが好きです」

彼女も静かに目を閉じて、胸に顔を擦り寄せてくる。

髪から伝わる甘い匂いに、頭が痺れていくような気がした。

アディエル「キス……したい」

〇〇「……えっ」

はっと顔を上げた彼女と目が合ってしまい、オレはとっさに口元を押さえた。

(しまった……声に出てた!)

誤魔化さなければと思いつつ、顔を真っ赤にした彼女の前では言葉に詰まってしまう。

けれど、やがて〇〇は意を決したようにまぶたを下ろして…-。

(いいのか……?)

オレはゆっくりと……彼女の唇に顔を寄せた。

(……柔らかい……)

そっと重ねるだけのキスをし、すぐに唇を離す。

目を開けると、〇〇は頬を赤く染めつつも、照れくさそうにはにかんでて…-。

〇〇「なんだか……結婚式みたいですね」

アディエル「な、何言いってるんだよ……」

ろうそくの灯りに照らされた聖堂は、まるでオレ達二人を優しく見守っているようで…-。

(……でも、いいな。それ)

(ルシアンもミカエラもいて、ダルファーの歌声が響く中で……)

アディエル「……もう一回、してもいいか?」

気づけば口が勝手に動いてしまう。

すると、〇〇は嬉しそうに微笑み、再び目を閉じてくれて…-。

(〇〇……大好きだ)

オレは愛おしさに胸を震わせながら、再び彼女に口づけたのだった…-。

おわり。

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