月最終話 結末

反乱軍の領主のもとへ向かう途中、私は弓矢に撃たれ倒れてしまった。

あれから数日が経ち、今は……

雷「今日の具合はどうだ」

〇〇「もうほとんど痛みも感じなくなりました」

雷さんに背中を支えられ、ゆっくりと体を起こす。

傷を負ってすぐに私は適切な処置を受け、大事には至らなかった。

〇〇「早く動けるようにならないといけませんよね」

雷「お前は何もしなくていい。とにかく体を休めていろ」

〇〇「でも、何の役にも立てなくて……」

雷「……必要ない。 お前は一刻も早く完治させることを考えていればよい」

〇〇「ありがとうございます。こんなに色々とよくしてもらって……」

雷「何を言っている。 元はと言えば、俺がお前をこのような時に国へ呼び寄せてしまったことが元凶であった」

〇〇「でも、そのおかげで雷さんに会えました」

雷さんは驚いたように目を丸くする。

けれどすぐに、優しい表情になって……

雷「早く良くなれ」

愛おしそうに目を細める。

(雷さん……)

反乱軍の領主のことが気がかりだったけれど、優しい表情の彼を失いたくなくて、私はそれ以上何も聞けずにいた。

その時…―。

家臣「雷様」

ばたばたと部屋の前が慌ただしくなり、家臣の一人が襖越しに声をかけてきた。

雷「何だ」

家臣「反乱軍の領主が、雷様にお会いしたいと」

雷「何!?」

驚いて、雷さんと顔を見合わせる。

雷「……」

すぐに雷さんの瞳に、鋭さが宿る。

〇〇「雷さん……私も同席させてください」

雷「駄目だ! 怪我をさせられたばかりではないか」

〇〇「今度は向こうからの申し出……それに、場所はこのお城です。どうか……」

雷「……」

雷さんは、厳しい顔をしていたけれど……

雷「わかった。だが、必ず俺の傍にいろ。いいな」

必死に言い募る私を見て、呆れたようにため息を吐いた後、同席することを承諾してくれた。

……

雷さんと私が部屋に入ると、反乱軍の領主は深く頭を下げた。

反乱軍領主「このたびは私めの申し出を受け入れていただき、言葉もございません」

張り詰めた空気が、部屋を支配する。

雷「わざわざご苦労だった」

領主「相変わらず……あなたはお優しいのですね」

そう言いながら、何かを取り出そうとする領主に、雷さんが身構えた。

雷「!」

領主が取り出したものは、折りたたまれた紙と小さな黒い箱だった。

(これは……?)

反乱軍領主「先だっての文と薬、確かにちょうだいいたしました」

雷「……そうか」

―――――

雷『お前はこれを、必ず領主に渡してこい。 必ずだ』

―――――

(あのときの……!? あれは、薬だったんだ!)

雷さんは、静かに頷く。

反乱軍領主は、顔を上げようとはしないまま話を続けた。

反乱軍領主「雷様……私が、間違っておりました。 このようなことをしてまで私の身を案じてくださるようなお方に対し……。 なぜ謀反を働いてしまったのか、悔やんでも悔やみきれず。 強欲に溺れた私を、どうか許さず、打ち首なり火罪なりー」

雷「うわべの言葉はいらない」

反乱軍領主「……」

雷「そうまでして、国が欲しかったか」

反乱軍領主「……今となっては分かりませぬ」

雷「俺では……頼りにならなかったか」

反乱軍領主「……お父上と比べ、雷様の心根を私は弱いと感じておりました。 雷様に国王様が政務を任されていることも……私は納得ができなかった。 しかしあなたにこうして助けられた今……真に強きは何か、迷うばかり。 ……申し訳ございませんでした」

雷「顔を上げよ」

反乱軍領主「しかし……」

雷「顔を上げよ!」

雷さんの怒号に、その場がしんと静まりかえる。

領主は、ゆっくりと顔を上げた。

雷「顔色はよい。 薬が効いたか?」

反乱軍領主「……はい」

雷「では、即刻、国外追放だ」

反乱軍領主「っ!? しっ、しかしそのような軽い刑罰ではっ」

雷「二度とこの国に現れるな。それを刑罰とする。 我々を裏切ってまで欲しかった国だ。帰れぬのはつらい罰だろう」

反乱軍領主「雷様……!」

雷「……」

雷さんは、最後に何か言いかけたけれど、そのまま口をつぐみ背を向けた。

雷「行くぞ、〇〇」

〇〇「は、はい」

領主の瞳には、涙が浮かんでいた…-。

……

それから、一言も会話を交わさないまま、私達は城へと戻った。

二人で部屋に戻り、静かに腰をおろしたとき…-。

雷「お前は、俺を裏切ることはしないか」

不意に雷さんが、私に問いかけた。

〇〇「……そんなことしません」

雷「俺を裏切ることで、大きなものが手に入るとしてもか」

〇〇「雷さんを裏切るなんて……私にはできません」

雷「俺はどうかしてしまったのかもしれん」

雷さんが、苦しそうに瞳を閉じる。

雷「お前が裏切らぬよう、この手の中に閉じ込めておきたい。 俺以外の何も見聞きせぬよう、お前の全てを封じておきたい。 そのようなことを、思ってしまう……」

(雷さん……?)

切なく悲しそうに言いながら、雷さんは私を抱き寄せた。

そしてそのまま……

雷「お前だけは、裏切らせん……」

私を押し倒した姿勢で、雷さんがじっと見下ろしている。

(そんな悲しい顔、しないで……)

雷「今すぐにお前を、奪い尽したいのだ」

〇〇「雷さん……」

雷「お前に触れないように自制してきたが……もう抑えられない。 俺はお前を好きにできる。 お前の意思に関係なく、その気になれば……片腕一本でお前を自由にできるぞ。 手も足も体も、全部お前より大きい。 俺のものに……なってくれるな?」

〇〇「……もちろんです」

(断るはずが……ない)

強く勇ましい人の心の脆さに触れて、一緒に涙がこぼれそうになる。

とても、雷さんのことが愛おしかった。

雷「〇〇……」

私の傷を気遣うように優しく、雷さんの指が私の体を滑り始めた…-。

おわり。

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