月SS 抑えきれない熱情

耳を覆いたくなるほどに、静かな夜だった。

〇〇にかつての悲しい記憶を打ち明けた後、俺は彼女の瞳を見つめた。

アヴィ「もう自分のせいで大切なものを失いたくなくて、強くなりたくて剣を振るい続けてきた」

(なのに……)

俺の母とフラフの母……ずっと傍にいた存在が同時に人生から消えてしまったことは、俺の胸に、消えない悲しみを植え付けていた。

アヴィ「俺はもうあんな思いは二度としなくないのに。 お前のこと、傷つけちまった。 ……なっさけねえ」

言葉と一緒に、後悔の念が押し寄せてくる。

(かっこ悪ぃな、俺……)

ふと目を上げると、〇〇が瞳に涙をためながら微笑んでいる。

アヴィ「……何で泣きながら笑ってんだよ」

頬が急激に熱を持ち、袖で顔をこすった。

〇〇「ごめん。でも、少し嬉しくて」

アヴィ「嬉しいって、お前…―」

〇〇「アヴィの、心を見れて。 私もあの後、アヴィのことが
気になってばかりだった」

(俺のことが……?)

アヴィ「〇〇……」

俺は、苦い記憶を掘り返す。

――――――――――

アヴィ「人の過去を詮索して、楽しいかよ」

〇〇「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて……」

――――――――――

(あの時俺は、弱さを見せたくなくて必死だった)

思い出すだけで、自分の情けなさに腹が立った。

(お前が人の心をかき乱して……土足で踏み込んできたみたいで)

(あんなひどいこと言ったのに)

(こいつは……俺を心配してくれていたんだな)

〇〇「アヴィの辛そうな顔が、頭から離れなかった」

彼女は、心から辛そうに、眉をひそめる。

〇〇「どうしたら、アヴィは笑ってくれるんだろうって……」

(俺はずっと本当のお前を見ていなかったんだな……)

(自分のことで手いっぱいで)

(怯えて心を閉ざしてばかりだった)

(けど、お前がこうやって俺の傍にいてくれるなら)

(俺は……)

〇〇の澄んだ瞳が、俺を見つめている。

アヴィ「……なら」

閉じ込めるように、彼女を壁に押し付けた。

〇〇「ア、アヴィ!?」

アヴィ「なら……何があっても、お前は俺が守ってやるよ。 だから、お前は俺の傍にいろ」

彼女の頬が染まり、まつ毛が恥ずかしそうに伏せられる。

その仕草に、胸が大きく跳ねた。

(……くそっ!なんだって言うんだ)

(もう知らないからな)

腹の奥から衝動が突き上げて、最早止めることができそうもなかった。

(お前が悪いんだ)

(俺の心をこじ開けたのはお前なんだからな?)

アヴィ「……俺に笑ってて欲しいんだろ?」

〇〇「あ、あの……」

アヴィ「顔、真っ赤」

耳元で囁くと、彼女がますます頬を赤く染める。

〇〇「だ、だって、アヴィがっ」

(俺が? お前がだろ)

(お前が……可愛すぎるから)

アヴィ「……俺は本気だよ。 質問に答えろよ」

(……断ってくれよ)

(そうでないと、俺は……自分を抑える自信がない)

そう思っていたのに……

〇〇「……私、アヴィのことがもっと知りたい。 傍にいて、支えになってあげたい」

アヴィ「〇〇……」

気付くと唇を重ねていた。

〇〇「ん……っ」

〇〇が反射で身体を引こうとし、俺は両手首をつかむ。

(震えてる……力、入り過ぎだろ)

そのことにまでも、愛おしさが増していく。

(悪いな。でも、そんなに可愛いのが悪い)

アヴィ「絶対に、離さないからな」

彼女に呼吸を許すと、腰元を引き寄せて、華奢な身体を強く抱きしめた。

(さあ、これからどうしようか)

俺は熱情に押し流されそうな思考を総動員して考える。

(まあ、考えたところで……我慢はきかねえだろうけどな)

(今夜は、離さない)

彼女の髪から、花の香りが漂う。

その髪を撫で、そっとキスを落とした…―。

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