月最終話 愛の奇跡

公務を終えて、ヴァイリーさんと夕陽の差し込む城の廊下を一緒に歩いていた時だった。

彼が私を部屋まで送ってくれたところで、不意に……

ヴァイリー「……っ!」

〇〇「ヴァイリーさん!?」

ヴァイリーさんが突然膝をつき、私と従者さん達は慌てて彼に駆け寄った。

従者「ヴァイリー様、大丈夫ですか!?」

ヴァイリー「……心配しすぎだ。ちょっと疲れただけだって」

ヴァイリーさんは軽い調子でそう言うけれど……

(本当に……大丈夫なのかな)

ヴァイリー「……もう大丈夫だ。じゃあオレは、自分の部屋に戻るから、オマエもゆっくり休めよ」

〇〇「でも……」

ヴァイリー「じゃあな」

私が何か言う前に、彼は背を向けて立ち去っていった…-。

部屋に一人でいても、不安が胸に渦巻くばかりだった。

(やっぱり……後でヴァイリーさんの部屋に様子を見に行こう)

そう決めた時、部屋に生けてあった白い花がはたと目に留まる。

―――――

執事『この花は、ヴェリティアでは愛を誓う際に贈る花なのです』

―――――

一縷の望みをかけるように、私はその花に手を触れた…-。

……

それから…-。

様子を見にきた私を、ヴァイリーさんは苦笑しながら迎えてくれた。

ヴァイリー「不安そうな顔だな」

〇〇「はい。心配なんです……」

彼は私に歩み寄り、ぽんと私の頭に手を置く。

それから、不器用な手つきで髪を撫でた。

ヴァイリー「本当に、ちょっと疲れただけだって言ってるだろ」

〇〇「ヴァイリーさん……ごめんなさい。でも」

街で明るく振る舞う彼に感じた、違和感…-。

〇〇「どこか……焦っているように見えてしまって」

そう告げると、ヴァイリーさんが言葉を詰まらせた。

ヴァイリー「……まあ、焦ってないとは言えねえけど」

獣化の呪いで獣の姿になってしまえば、ヴァイリーさんはこの城に留まることができない。

想像するだけで、胸がひどく痛む。

ヴァイリー「でも、オマエが近くにいると不思議と心が安らぐんだ」

(それなら……!)

ヴァイリーさんの言葉に、弾かれたように顔を上げた。

〇〇「ヴァイリーさん、私……」

ヴァイリー「だからって……オマエの未来を、オレのために使わせるワケにはいかねえだろ?」

〇〇「っ……」

ヴァイリーさんの微笑みには、先ほどよりも濃い諦めがにじんでいて…-。

〇〇「どうしてですか……!」

私は思わず、彼に詰め寄った。

ヴァイリー「真実の愛で呪いは解ける……そう伝えられてるのは知ってるんだ。 でも……それは絶対なのか? 真実の愛なんて、そんな不確かなものにすがれねえよ」

〇〇「でも……っ!」

さらに言葉を重ねようとした時、大きな手にぐっと引き寄せられた。

鼓動が跳ね、間近にあるヴァイリーさんの瞳しか見えなくなる。

ヴァイリー「それに……呪いが解けるとか解けないとか、そんなことよりもオレは……。 ただオマエと一緒にいたい。そう強く、思うんだ」

大きな手が、私の頬にそっと……壊れ物を扱うかのように触れる。

彼がどれだけ私を大事に想ってくれているかが伝わってきて、切なさが溢れ出した。

ヴァイリー「オマエと一緒にいると、オレはどんどんオマエのことが好きになって、離したくなくなって…-。 オマエの愛が、オレのものならって……願ってしまう」

〇〇「ヴァイリーさん……」

彼の笑みが切ない色に染まった時、私は考えるよりも早く口を開いていた。

〇〇「願わなくたって……私の愛は、ヴァイリーさんのものです」

ヴァイリー「〇〇……。 オレはこれから今までより、オマエに辛い思いをさせてしまうかもしれない。 それでも一緒にいてくれるか?」

ヴァイリーさんの瞳が、力強く輝く。

〇〇「もちろんです。私もヴァイリーさんの傍にいたい。 そして、私の想いで……ヴァイリーさんの呪いを解きたい」

そう言って、執事さんからもらった花を彼に差し出した。

ヴァイリー「その花……」

花を見て、彼は驚いたように目を丸くし……やがて柔らかな笑みを浮かべた。

ヴァイリー「誓いの花、か。愛を誓うと、白い花が赤く染まる……」

そう言いながら、ヴァイリーさんが花に触れた時…-。

〇〇「あ……」

白い花弁が、ゆっくりと色を変えていく…-。

ヴァイリー「こんな……ことが…-」

彼は花が赤く染め上げられる様子に見入っていたけれど、やがてふっと頬を緩めた。

ヴァイリー「この赤い花を……オマエに捧げる」

大きな手が、花を持つ私の手ごと、ぎゅっと強く握りしめる。

何にも負けない彼の熱情が伝わってきて……私達の心に光が生まれたことを知った。

ヴァイリー「……オマエの愛に、応えさせてくれ」

真摯な声に、私は言葉を失くして頷き……

(これがきっと……)

(『真実の愛』…-)

目の前で起きた小さな奇跡に、私達は未来への希望と、永遠に続く愛を誓ったのだった…-。

おわり。

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