月7話 二人の距離

静寂に包まれた部屋で、ヴァイリーさんの息づかいがはっきりと聞こえてくる。

彼は困ったように笑った後、私の涙を指で優しくぬぐってくれた。

ヴァイリー「諦めてはねーよ。 ただ……」

何かを言いかけて、彼は言葉を途切れさせてしまう。

ヴァイリー「……今日は休もう」

ヴァイリーさんは笑っているのに、どこか距離を置かれたような気がして……

(やっぱり、私じゃ……)

だけどこれ以上、ヴァイリーさんを困らせることはできない。

〇〇「……おやすみなさい」

私は歯がゆい思いを抱えたまま、ヴァイリーさんの部屋を出た…-。

廊下を出ると、執事さんが私のことを待ってくれていた。

執事さんと歩く長い廊下は、昼間の慌ただしい空気が嘘のように、ひっそりと静まり返っている。

〇〇「執事さん、ヴァイリーさんの呪いですが……真実の愛があれば、解けるんですよね」

執事「はい。記録にはそうあります」

〇〇「じゃあ、私を招待してくれたのって……」

執事「はい……申し訳ありません。 〇〇様なら、ヴァイリー様を救ってくださるのでは、と…-。 お二人の様子を見ていたら、姫様こそがと思ってしまったのです」

深々と頭を下げる執事さんに、私は首を振った。

〇〇「謝らないでください。私も……ヴァイリーさんを救いたいんです」

決意を込めてそう言うと、執事さんが何かを差し出した。

執事「……姫様、こちらの花をどうかお使いください。 この花は、ヴェリティアでは愛を誓う際に贈る花なのです」

白く可憐な花を受け取ると、甘く穏やかな香りが漂う。

その香りが、ざわめいていた心を少し落ち着かせてくれた。

〇〇「ありがとうございます」

微笑んで頷くと、執事さんはどこかほっとしたように目を細めたのだった…-。

……

執事さんから花を受け取った、翌日…-。

ヴァイリーさんの公務に付き添って、私は再び街の視察に出ていた。

ヴァイリー「作業はこのまま進めてくれ。もし遅れそうだったら、すぐに報告してくれるか?」

職人「はい、もちろんです!」

(ヴァイリーさん、すっかり元通りに見えるけど……)

職人さん達と明るく言葉を交わす彼は、いつも通り快活な表情を見せている。

〇〇「ヴァイリーさん、そろそろ休憩をした方がいいんじゃ……」

気遣うと、彼は時間を思い出した様子で頷く。

ヴァイリー「わりぃ、忘れてた。そろそろ飯の時間だな。 せっかくだから、このまま街の店に寄らせてもらおうか!」

ヴァイリーさんは、街行く人々に声をかけることも忘れない。

―――――

ヴァイリー『諦めてはねーよ』

―――――

ヴァイリーさんは、確かにそう言っていたけれど……

(どう……思っているんだろう)

吹っ切れたようにも見えるその明るさに、かえって不安になってしまうのだった…-。

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