月最終話 溢れる感情

静かな廊下に、二人の足音が響く…-。

フレイヤさんと別れた後、ジークさんは私を部屋まで送ってくれていた。

ジーク「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」

〇〇「いえ、そんな……」

さっきから、ジークさんとフレイヤさんが見つめ合う姿が頭をよぎる…-。 

(私、どうしちゃったんだろう……)

突然生まれた感情に、私は振り回されていた。

〇〇「お二人の絆がとても深くて、羨ましいです……」

耳に聞こえた自分の声が思った以上に沈んでいて、言葉に詰まる。

ジーク「どうかされましたか?」

〇〇「……いえ、なんでもないです」

こんなことで嫉妬する自分が信じられず、思わず言い繕う。

(知られたら、きっと嫌われてしまう)

怖くなって彼から視線を逸らそうとするけれど、彼がそれを許してくれない。

ジーク「……何を考えていらしたのですか?」

〇〇「……言えません」

ジーク「プリンセス……私はあなたの悩みを打ち明けるに足る相手ではないでしょうか?」

彼の寂しそうな声が、廊下に響き渡る。

〇〇「いえ、そんなこと……! そうじゃなくて……。 こんなことを話してジークさんに嫌われたらと思うと、言えなくて」

ジーク「私があなたを嫌いになるなど……そんなこと、あり得ません」

真顔できっぱりと言い切られ、胸が軋む。

〇〇「……フレイヤさんが妹とわかりながら、嫉妬したとしてもですか?」

ジーク「……!」

〇〇「こんな感情を抱くなんて……私自身も自分が嫌いになります。どうしてこんなに心が狭いのかって……」

ジーク「……」

真摯に向けてくれている想いを信じることができなかった。

そんな自分を恥じながらうつむいた、次の瞬間……

(え……)

壁との間に私を挟むようにして、ジークさんが私を閉じ込めた。

ぐっと近づいた距離に、心臓が早鐘を打っている。

ジーク「嫌いになる? いいえ、それどころか……私の胸は今、喜びに満ち溢れています。 ……騎士としての誓いを忘れてしまいそうになるほどに」

苦しげに吐き出される言葉に、胸が締めつけられる。

ジーク「女性に対しての振る舞い方は、子どもの頃からわかっているはずなのに……。 私は感情のままに、あなたにこのようなことをしてしまっている」

〇〇「ジークさん……」

彼は苦しそうな表情を浮かべながら、ひとつひとつ言葉を紡ぐ。

ジーク「嫉妬するほどに私を慕ってくれていると……そう思うと心を静めることができない。 あなたを前にすると、私の心は揺らいでしまうのです。 あなたの言葉、しぐさ……私を見つめるその眼差し一つで、今までの私が崩れそうになる。 『乙女への誓い』を……私は守れそうにありません」

彼の瞳が、切なそうに揺れて…-。

ジーク「あなたを強く求めてしまう……この溢れる感情を止めることができない……。 こんな私を、あなたは軽蔑しますか?」

〇〇「私は……どんなジークさんでも、嫌いになんてならないです。 まだ知らないジークさんを、これからもっと見ていきたいから」

(いつか、あなたのすべてを知ることができたら……)

ジーク「プリンセス……」

ジークさんが、安堵したようにため息を漏らした。

ジーク「私も、どんなあなたでも変わらずお慕いし続けるでしょう。 たとえ、あなた自身が嫌いなあなたでも、私は嫌いになどなれるはずがないのです」

〇〇「ジークさん……」

すべてを受け入れてくれる安心感、深い愛……彼の想いを感じて、胸が震える。

溢れる愛しさのまま、私は背伸びをして彼の頬にそっとキスを落とした。

ジーク「プリンセス……そのようなことをされては、本当にもう抑えられなくなってしまいます。 私のプリンセス……あなたにもっと、触れたい」

頬に優しく手を添え、ジークさんが私の唇にキスをする。

窓から差し込む月明かりが、私達を優しく照らして……

夜の静寂に包まれ、私達は密やかに愛を確かめ合うのだった…-。

おわり。

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