月SS 嫉妬

どこまでも澄み渡る青空は、とても清々しい…―。

(もう少しでプリンセスに会える……)

そう思うと、剣術の稽古にも自然と力が入った。

(プリンセス……例えどんなことが起ころうとも、私はあなたを守ることを誓います)

(そのためにも、こうして日々の鍛錬が必要だ)

剣を振るう音が、中庭に響き渡る…-。

??「お兄様」

聞き覚えのある声に振り返ると、フレイヤが険しい顔で立っていた。

ジーク「フレイヤ、どうしましたか?」

フレイヤ「近頃、お兄様はお忙しいのね。ちっとも私と遊んでくださらない」

ジーク「……フレイヤ、申し訳ない。 大切な人を守るためには、毎日の積み重ねが重要なんだ」

フレイヤの目線に合わせて屈もうとした時、彼女の背が以前よりも伸びていることに気づく。

(すっかり大きくなって……)

微笑ましく思っていると、フレイヤが唇を尖らせて私を見た。

フレイヤ「その人は、お兄様の気持ちをちゃんとわかっているのかしら?」

ジーク「プリンセスが、私の気持ちを……?」

思わず笑みがこぼれ、私は口元を手で押さえた。

(そんなことを考えるとは……やはり、フレイヤはまだ子どもだな)

ジーク「フレイヤ、愛とは見返りを求めるものではないのです」

フレイヤ「だって、その人にはお兄様より大切な方がいらっしゃるかもしれないじゃない?」

ジーク「それは……っ」

(そんなことは、考えたことがなかった……)

(いや、考える必要がないのだ)

ジーク「それでもいいんだ、フレイヤ」

(もしそうだとしても、私のプリンセスへの愛は変わらないのだから)

(心から忠誠を誓える相手に身を尽くす……それでこそ騎士なのだから)

この時は、心からそう思っていた…-。

それなのに…-。

……

あなたが、潤んだ瞳で私を見つめる…-。

〇〇「こんなことを話してジークさんに嫌われたらと思うと、言えなくて」

静かな廊下に、プリンセスの震える声が響いた。

(プリンセス、あなたは何を言っているのですか?)

ジーク「私があなたを嫌いになるなど……そんなこと、あり得ません」

私がはっきりとそう言うと、プリンセスが堰を切ったように話し出した。

〇〇「……フレイヤさんが妹とわかりながら、嫉妬をしたとしてもですか?」

(あなたが……嫉妬を?)

〇〇「こんな感情を抱くなんて……私自身も自分が嫌いになります。どうしてこんなに心が狭いのかって……」

苦しげにつぶやくその表情を見て、言葉で表せられない感情が胸に押し寄せた。

(見返りは求めないと決めていたのに……)

(あなたのその想いが、こんなにも私の心を震わせる)

騎士としてどうあるべきか、重要な自問すら頭の隅に追いやって……

私は壁を背にプリンセスを閉じ込める。

ジーク「嫌いになる? いいえ、それどころか……私の胸は今、喜びに満ち溢れています。 ……騎士としての誓いを忘れてしまいそうになるほどに」

自制できない己の未熟さを恥じながらも、心は喜びに打ち震える。

(こんなことではいけないとわかっているのに……)

ジーク「女性に対しての振る舞い方は、子どもの頃からわかっているはずなのに……。 私は感情のままに、あなたにこのようなことをしてしまっている」

〇〇「ジークさん……」

ジーク「嫉妬するほどに私を慕ってくれていると……そう思うと心を静めることができない」

プリンセスが嫌がれば、すぐに離すつもりでいた。

けれど戸惑うような眼差しを向けられて怯みながらも、彼女の瞳には拒絶の色は浮かんでいない。

ジーク「あなたの前にすると、私の心は揺らいでしまうのです。 あなたの言葉、しぐさ……私を見つめるその眼差し一つで、今までの私が崩れそうになる。 『乙女への誓い』を……私は守れそうにありません。 あなたを強く求めてしまう……この溢れる感情を止めることができない……」

(今の私は、あなたにどう映っているのでしょうか?)

ジーク「こんな私を、あなたは軽蔑しますか?」

恐る恐る尋ねれば、麗しい瞳がまっすぐに私を見つめた。

〇〇「私は……どんなジークさんでも、嫌いになんてならないです。 まだ知らないジークさんを、これからもっと見ていきたいから」

その言葉に、ひどく安堵して……

想いを伝えるように頬に口づけられると、抑えていた欲が顔を出す。

(ああ……もう、これ以上は自制できそうにありません)

ジーク「私のプリンセス……あなたにもっと、触れたい」

柔らかな髪に触れ、彼女の顔を覗き込む。

(あなたを愛しています……永遠に)

深まるプリンセスへの愛と共に、幸福で甘美な夜が静かに更けていった…-。

おわり。

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