第3話 鞠つき

物音がしてそっと振り返ると…ー。

(あの子は……!)

小さな子どもが、物陰からこちらをうかがうように顔を出していた。

男の子とも女の子ともつかないような姿で、不思議な空気をまとっている。

カノト「あの子……さっき話した子」

子どもを見たカノトさんが、ぱっと顔を輝かせた。

◯◯「えっ?」

私は、もう一度子どもの方に視線を戻す。

すると……

子ども?「!!」

びくりと肩を震わせたかと思うと、子どもは一瞬にして姿を消した。

けれど、次の瞬間……

◯◯「っ…… !?」

子どもは再び姿を現し、こちらを興味深そうに見つめている。

その子のまとう不思議な雰囲気が、私の考えを確信に変えた。

(やっぱり物の怪だよね? だけど……)

◯◯「悪意はなさそうですね」

カノト「あの子、友達。悪意なんかないよ?」

◯◯「そうですね。でも、一応物の怪のようなので……」

カノト「物の怪……そっか……気づかなかった。 きみ、物の怪なの?」

首を傾げ、カノトさんは物の怪に尋ねる。

すると物の怪はこくこくと頷いてから、満面の笑みを浮かべた。

カノト「物の怪だけど、いい子」

◯◯「はい。優しそうな子です」

カノトさんと話していると、最初は不安げにこちらを見ていた物の怪が少しずつ近づいてくる。

◯◯「あなたは、座敷童さん?」

私が尋ねると、物の怪は警戒したように小さく頷く。

(やっぱり……座敷童って、こよみの国にもいるんだ)

目の前にいる、着物姿の愛らしい物の怪をまじまじと見つめてしまう。

カノト「◯◯も、いい人。怖くない」

座敷童「……ほんと?」

カノト「うん!」

カノトさんの笑顔を見て安心したのか、座敷童はこちらへと駆け寄ってきた。

その手に持っていた鞠を、すっと力ノトさんに差し出す。

座敷童「ねえ、あそんで!」

カノト「ふふ、いつもの鞠つき? もちろん」

カノト「◯◯も、いい?」

◯◯「もちろんです。でも、その前にちょっとだけ待ってもらってもいいですか?」

カノト・座敷童「どうして?」

二人が同時に首を傾げる。

(なんだか兄弟みたい)

同じような仕草をする二人を微笑ましく思いながら、私は座敷童の手から鞠を取った。

◯◯「この鞠、ぼろぼろになってます。だから直してもいいですか?」

私がそう言うと、座敷童は嬉しそうに飛び跳ねる。

座敷童「うん! うん! ありがと!」

カノト「ふふっ、よかったね」

座敷童「うんっ!」

カノトさんに頭を撫でられた座敷童が、笑顔で頷く。

(この鞠も、すごくかわいいな。それに……)

鞠を見つめていると、いろいろなことが伝わってきて……

◯◯「片時も離さないでいたのかな?」

座敷童「うん、ねるときもいっしょ!」

カノト「わかる。僕もそういう大事なの、ある」

応急処置だけど紐の解けた場所や剥がれてしまった場所を簡単に直してあげる。

すると座敷童は、目をきらきらさせてカノトさんに見せた。

座敷童「なおしてくれた!」

カノト「よかった。じゃあ、鞠つきする?」

座敷童「する!」

座敷童が立ち上がって距離を取り、鞠を床に弾ませながらカノトさんに投げる。

受け取ったカノトさんは、同じように床に弾ませ座敷童に投げ返す。

(なんだかカノトさん、お兄ちゃんみたい)

二人を見つめながら……私は温かな気持ちと一緒に、微かな寂しさを感じていた。

(こんなことを思うのはおかしいって、わかってるけど)

出会った時からずっと私に懐いてくれていたことを思うと、胸がきゅっと切なくなった。

カノト「◯◯も、やろう?」

◯◯「っ!」

突然投げられた鞠を、しっかりと受け止める。

座敷童「すごいすごい!」

ぴょんぴょん跳ねる座敷童を見ながら、カノトさんは幸せそうに頬を緩めた。

カノト「3人で遊ぶの……楽しい。これからも、ずっと3人で遊びたいな」

座敷童「たいな!」

◯◯「ふふ、そうですね」

そう頷いた瞬間、ふと疑問が胸を過ぎる。

(そういえば、神楽は物の怪に通り過ぎてもらうもの……だよね?)

(じゃあ、演目が終わったら……?)

無邪気にはしゃぐ座敷童とカノトさんをじっと見つめる。

二人を見ながら、胸の奥に小さな不安が生まれたのだった…ー。

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