第5話 ミヤとイリア

それから数日……

私はミヤと、街を巡ったり、お互いのことを話したりと楽しい日々を過ごした。

けれど……

ーーーーー

ミヤ『今、イリアは城にいないんだ』

ミヤ『帰ってきたら、紹介するからね』

ーーーーー

ミヤの口から、イリアという名前が出ることはないままだった…-。

そしてある日…-。

朝になり、身支度を整えて窓の外に目を向ける。

鳥達がさえずり、太陽がさんさんと輝く美しい朝だった。

(まぶしい……)

太陽を見ると、なんとなくミヤのことを思い出してしまう。

ーーーーー

ミヤ『月はさ、無理して輝かなくても、こうして夜には主役になれるから』

ーーーーー

ふと、あのミヤが頭に過ぎる。

ミヤは、朝はいつも決まってどこかに出かけていて、行先を尋ねてもあいまいに答えて結局は教えてくれなかった。

○○「すみません、ミヤ王子は今どちらに?」

思いきって部屋のベッドのシーツを取り替えに来てくれた、メイドさんに尋ねてみる。

メイド「ミヤ様なら、朝はたいていお城の裏にある森へ行かれてるようです」

○○「裏の森……ありがとうございます!」

メイドさんに教えてもらって、私は森へと向かった。

森へ入ると、深い緑の木々の向こうに、ミヤの姿を見つけた。

(あ……)

木の幹に背を預けたミヤは、木漏れ日の下で何かの本を熱心に読んでいる。

(真剣な表情……)

話しかけられずに、私が立ち尽くしていると……

ミヤ「○○ちゃん」

不意に、ミヤが顔を上げた。

ミヤ「嬉しいな、オレに会いに来てくれたの?」

○○「……うん、メイドさんに聞いて」

笑顔を向けながら、ミヤは隠すように本を閉じる。

○○「それは……」

ミヤ「ああ……魔術書だよ」

ミヤ「ちょっと気まぐれに見てただけ」

ミヤの瞳がほんの一瞬、悲しそうな色を浮かべる。

(ミヤ……どうして?)

○○「ミヤは……何を考えているの?」

思わずそう口に出してしまうと……

ミヤ「……何のこと?」

誤魔化すようにミヤが笑う。

○○「ミヤはいつも明るくて元気で……。 でも、時々すごく辛そうに見える」

ミヤ「……」

○○「ミヤ……」

目を逸らさずにいる私に負けたように、小さく息を吐いた。

ミヤ「まいったな……。 キミには、かなわないや」

ミヤの口元から、笑顔が消えていく。

ミヤ「……オレは」

その時突然、背後に嫌な気配を感じた。

穏やかな陽気を歪め、黒い闇が渦を巻いて現れる。

その闇の中から、黒いローブをまとった一人の男性が姿を見せた。

ミヤ「……!」

私を背中にかばうように、ミヤが男の前に立ちふさがる。

ローブの男「こんなところで供もつけずに……不用心だな、ミヤ王子」

ミヤ「誰だ」

ローブの男「イリア王子に用があったんだが、生憎今は城にいないようでな」

(イリア……王子?)

(昨日、パーティ会場で何度も聞いた名前……王子ってことは)

(ミヤの、兄弟……?)

ミヤ「アンタもイリアにご執心なわけ? 妬けちゃうなあ~、オレ」

ミヤが、からかうように男に言葉を投げかける。

ローブの男「イリア王子はいつ帰って来る?」

ミヤ「アンタみたいな怪しい奴に、親切に教えるとでも思ってんの?」

ローブの男「まあいい。お前などに用はない」

ミヤの眉が、ぴくりと動く。

そして……

男はそのまま闇の中へ消え、辺りは元通りの平穏が戻って来た。

○○「い、今のは……」

ミヤ「驚かせちゃってごめんね。たぶん、対立してた国の魔術師だ。 最近になって、イリアが友好条約を結んだんだけど、中には反対派もいてね。 その一派かもしれない」

(イリア……)

ミヤ「イリアは、オレの双子の兄さんなんだ」

私の考えていることを見透かすように、ミヤが説明を始めた。

ミヤ「真面目で、優秀で……父上も母上も皆イリアに期待している。 オレもイリアはすごいって思う。 弟として鼻が高いし、大好きだよ。 けど……時々まぶしすぎて、うらやましく思う時もある」

○○「ミヤ……」

ミヤ「でもオレはイリアにはなれない。優秀じゃないから……誰にも期待されない。 こんな森に隠れて魔術の勉強したって、イリアには全くかなわないってわかってる。 だからせめて、明るく振る舞って、盛り上げて。皆に好きになってもらいたかった。 ミヤがいれば楽しいって言われるのが、必要とされてるようで嬉しかったんだ。 それすらもできなくなったら、オレに価値なんてないんだよ」

(そんなこと、思ってたの……?)

ミヤの瞳が、悲しそうに細められる。

それがどうしようもなく私の胸を締めつけて……

○○「そんなことないよ!」

思わず声を上げてしまっていた。

すると、ミヤの視線が私にまっすぐに注がれる。

ミヤ「ねえ、○○ちゃん。昨日のこと本当?」

○○「え?」

ミヤ「……元気がなくても、いいんじゃないって」

ーーーーー

○○『元気がなくても、いいんじゃないかな?』

ーーーーー

ミヤの瞳が、不安げに揺れている。

○○「もちろんだよ」

(どんなミヤでも、私は……)

揺れる瞳をまっすぐ見つめ返して、はっきりと言い切る。

○○「でも、できれば笑ってて欲しいかな」

ミヤ「……」

○○「あ、違うの! 無理にってわけじゃなくて……」

ミヤ「ハハッわかってるよ……ありがとうね」

すると、ミヤはいつものように笑ってくれた。

ミヤ「城へ急ごう。怪しい奴がいたって報告しないと」

ミヤに差し出された手を、ぎゅっと握りしめた…-。

<<第4話||太陽覚醒へ>>||月覚醒へ>>