第3話 イリアという名前

猫を助けた後も、私はミヤと街を巡った。

露店でお菓子を買って食べたり、雑貨屋さんで珍しい魔法道具を見たり…―。

ミヤといる時間は本当に楽しくて……

気がつくと陽が傾き始め、視界が薄紅色に染まっていた。

(もう、こんな時間?)

(楽しい時間って、どうしてあっという間に過ぎちゃうのかな)

ミヤも同じことを考えていたのか、ふと顔を見合わせて二人で肩をすくめた。

ミヤ「ははっ!! ……さあ、帰ろっか」

○○「そうだね」

名残惜しかったけれど、私達は城に急ぐことにした。

ミヤ「そうだ、今日の夜はパーティを開こう!」

○○「パーティ?」

ミヤ「そう! せっかく○○ちゃんが来てくれたんだし」

○○「そ、そんな気を使わなくて平気だよ」

目をまばたかせる私に……

ミヤ「遠慮はナシだよ、○○ちゃん! けど、実はオレがやりたいだけだったりして」

彼はそう言って照れくさそうに笑った。

ミヤ「じゃあ、決まりね!」

○○「うん! ありがとう」

そして城に到着すると、執事さんやメイドさんが私を歓迎してくれた。

ミヤ「さーて、どうしよっか! どうせなら楽隊も呼ぶってのはどう?」

執事「それは、いいアイデアでございますな!」

メイド「お料理も、音楽に合わせたテーマで盛りつけませんか?」

ミヤ「いいね、それ!」

ミヤを中心に、城の皆も楽しそうにアイデアを出していく。

(やっぱり、ミヤの周りは笑顔でいっぱい)

溢れる笑顔に、胸を温かくしていたその時……

王妃「何の騒ぎですか?」

楽しい空気を消し去るように、冷たい声が響き渡った。

しんと静まり返る廊下に、お供の方を連れ、銀色の長い髪の美しい女性が姿を現した。

ミヤ「母上……」

(ミヤのお母様? ということは、王妃様だよね)

ミヤ「歓迎パーティを開こうという話をしていたんです」

王妃「それはいい考えですわね。 トロイメアの姫君、ようこそ我が国へ」

王妃様は、私に柔らかく微笑みかけてくれる。

王妃「どうそ、楽しんでくださいませ」

○○「ありがとうございます、王妃様」

そして、その瞳がミヤに向けられると……

(え……?)

突然に柔らかな微笑みが消え、氷のように冷たい表情が浮かべられた。

王妃「ミヤ、もうしばらくで、イリアが外遊から帰ってきます。 「あなたが何をしようと構いませんが……決してイリアの邪魔をしないように」

(イリア……?)

ミヤ「わかっていますよ、母上!」

ミヤが、いつものように屈託なく笑う。

けれどその笑顔は、どこか強張っているように見えたのだった…-。

……

夜になり、楽隊の音楽がパーティの開始を告げた。

ミヤ「楽しんでね、○○ちゃん!」

ミヤに手を引かれ、華やかに飾りつけられたホールを進んでいく。

大テーブルには豪華な料理が並べられ、おいしそうな香りが広がる。

ミヤ「急だったけど皆張り切っちゃって。 きっと皆も○○ちゃんに喜んで欲しかったんだね」

そう言って笑うミヤの笑顔からは、先ほどの固さも消えていて……

私はほっと胸を撫で下ろした。

○○「すごいね、街の人達まで来てくれて」

ミヤ「大勢の方が楽しいでしょ? 皆、オレの友達だよ!」

○○「ミヤは、人気者だね」

その証拠に会う人皆が、

ミヤの友達1「ほんっといい奴だよな、ミヤって」

ミヤの友達2「王子なのに気取ったとこなくて、一緒にいると楽しいんだよな」

ミヤの友達3「そうそう、ミヤが王子様だって、たまに忘れてることある」

そう口々にミヤのことを私に話してくれた。

けれど、その言葉にはもう一つ……

ミヤの友達1「まあ、イリア様より優秀かって言われたら違うけどさ」

ミヤの友達2「ああ……まあイリア様は本当に上品で王子様って感じだからな」

ミヤの友達3「ミヤと正反対だよな」

(イリアさん……?)

ミヤと比べるように、その名前が出てこない時がない。

(王妃様も、イリアさんのことを話していたよね)

○○「ミヤ、イリアさん……って?」

ミヤ「イリア……?」

聞き返すミヤの表情から、ふと、笑顔が消えた。

ミヤ「そっか、○○ちゃんもイリアが気になるか……」

(ミヤ……?)

戸惑う私に気づき、ミヤがはっとして明るい笑顔を作る。

ミヤ「今、イリアは城にいないんだ。 帰ってきたら、紹介するからね」

そう言うミヤが、無理に笑っているように思えて……

(ミヤとイリアさんの関係って……?)

ミヤのその横顔に、胸が締めつけられるように苦しくなった…-。

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