第3話 いざ、湯治の旅へ

山筋を一つ越えた渓谷に、とても体にいい温泉があると聞いた私達は・・・・

開花の儀式を控えた桜花さんの体調が少しでもよくなればと思い、その場所へ向かうことにした。

従者「桜花様、○○様・・・・くれぐれもお気をつけて」

城門をくぐったところで、従者さん達が心配そうに私達を見送る。

○○「えっ・・・・」

(従者さん達は、一緒に行かないのかな?)

気になって背後を振り返っていると、桜花さんがくすりと笑った。

桜花「これでいいのですよ。 私が、彼らについて来るなと言ったのです」

○○「桜花さんが?」

桜花さんは、立ち止まると私の顔をうかがうように見つめてくる。

桜花「少しでも、○○さんと二人きりの時間を大切にしたかったのです」

(桜花さん・・・・)

桜花「嫌ですか?」

○○「い、嫌じゃないです!」

桜花「よかった、安心しました。 嫌ではないのなら、よかったです」

悪戯っぽい笑みを浮かべる桜花さんは、なんだか楽しげで・・・・

桜花「さあ、行きましょうか」

(桜花さんと二人きりで・・・・)

戸惑いながらも、私の胸は大きく高鳴った。

渓谷までの道のりは、春の訪れなど忘れてしまっているかのように、雪がたくさん残っていた。

ふわふわとした雪を踏みしめながら、私達は歩みを進める。

(桜花さん、疲れていないかな?)

○○「桜花さん、体調は大丈夫ですか?寒くはないですか?」

桜花「私なら大丈夫です。あなたが傍にいるだけで、心が温かいですから」

(えっ・・・・)

桜花さんの何気ない言葉が、私の頬を熱くする。

桜花「大丈夫ですか? ○○さん、顔が赤いですよ」

○○「だ、大丈夫です!」

桜花「本当ですか? 先ほどより赤くなっていますよ」

桜花さんは、私の顔を心配そうに覗き込む。

桜花「寒いでしょう。さあ、こちらへ」

(えっ・・・・)

不意に、桜花さんに体を抱き寄せられる。

私は、驚いて彼を見つめた。

(か、顔が近い・・・・)

長いまつ毛、すっと通った鼻筋、涼しげな目元・・・・ー。

その華麗な顔立ちに、思わず見とれてしまう。

桜花「こうして体を寄せ合えば、少しは温かくなりますね」

○○「は、はい・・・・」

桜花さんの腕の中に、すっぽりと包み込まれる。

冷たい冬の寒さから、彼にしっかりと守られているようだった。

(温かい・・・・)

○○「あっ、雪が・・・・」

ふと足元を見ると、この辺りは雪解けが始まっている。雪が溶けた場所からは、つくしが顔を出していた。

桜花「つくしが背伸びをしていますね」

○○「ええ。そうですね」

確かに芽吹いている小さな命を見て、心も温かくなる。

その時、二人の間を心地よい風が通り抜けた。

○○「気持ちいい風ですね」

風はまだ冷たいけれども、私達の体を悪戯に冷やすものではなかった。

(春はすぐそこに・・・・)

そのことが嬉しくて、私と桜花さんは、顔を見合わせて微笑み合ったのだった・・・・ー。

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