第4話 人魚の涙

ホエールウオッチングをしたりとクルージングを楽しんだ後、船が着いたのは、人出の多い建物だった。

マルタン「さ、じゃあ一回ここで降りようか」

○○「ここは……?」

マルタン「見てればわかるよ」

マルタンさんに手を引かれ、建物の中に入っていくと、舞台を取り囲むように座席が用意されていた。

並んで席についてから少しして、軽快なファンファーレと共に始まったのはオークションだった。

マルタン「ここは海賊の国、ということは知ってるだろう?」

オークションの邪魔にならないよう声をひそめたマルタンさんが、私の耳元で話しかけてくる。

○○「は、はい……」

マルタン「彼らが見つけてきた財宝が、こうしてオークションにかけられるんだよ」

○○「それじゃあ、すごい宝物や宝石が出てきそうですね」

マルタン「そのとおり。世界で唯一なんていう伝説の宝が登場したりするんだ。 っと、きたきた」

そう言いながら、マルタンさんが目配せをする。

檀上で紹介されているのは、『人魚の涙』という名の宝石だった。

(雨だれ型の宝石がついたブレスレットなんだ……すごく素敵)

光の当たり具合によって、色彩を変化させる人魚の涙は、目を見張るほどの美しさだ。

当然のごとく、値もどんどんと跳ね上がっていく。

マルタン「……」

その様子を黙って見ていたマルタンさんが、ゆっくりと足を組み替えた。

マルタン「うん、ここいらかな」

(え……?)

それまでとはけた違いの金額を、マルタンさんが高らかに宣言する。

城内はシーンと静まり返り、人魚の涙はマルタンさんの手中に落ちたのだった…-。

マルタン「はい、これ。プレゼントだよ」

先ほど落札したばかりの人魚の涙を私に差し出しながら、マルタンさんが微笑む。

○○「え……」

マルタン「君に似合いそうだと思ってね。おじさん本気になっちゃった」

○○「そ、そんな……こんな高価なもの……」

マルタン「受け取ってくれないの?」

○○「……本当にいいんですか?」

マルタン「もちろん。君のために手に入れたんだから」

○○「じゃあ、お言葉に甘えて……すごく大事にします」

マルタン「これはアパタイト……優しい誘惑という意味を持つ宝石なんだ。 ……今日の記念に」

○○「なんだか申し訳ないです……」

マルタン「じゃあその代わりと言ってはなんだけど……。 ○○ちゃんも、俺に素敵な思い出をちょうだいね」

マルタンさんは私に向かい、悪戯っぽい笑みを浮かべてみせたのだった…-。

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