アンキュラへ招待してくれたマルタンさんは、なんと豪華なクルーザーで私を迎えに現れたのだった…-。
マルタン「さあ、○○ちゃん。こっちへおいで」
そう言って差し出された手を掴み、私もクルーザーに乗船する。
マルタン「ようこそマリン・ピスコ号へ、プリンセス」
マルタンさんは恭しくお辞儀をして、私を船内へと招き入れた。
○○「なんだか緊張しちゃいます。こんなの初めてで……」
マルタン「○○ちゃんの初めてに遭遇できたなんて、俺はついてるな。 でも大丈夫。君の緊張はちゃんと俺が解いてあげるからね」
そう言って、マルタンさんは私を甲板に置かれた柔らかいソファーに座らせた。
頬に当たる心地よい風に吹かれながら、きらきらと輝く海を眺める。
(船上から眺めると、海の色がいっそう濃くなるんだ……綺麗)
マルタン「気に入ったかい? 俺の船」
○○「はい。船から眺める海って素敵ですね」
マルタン「君を喜ばせることができてよかった。 さ、今から始まる夢のパーティの、ウェルカムドリンクだよ」
グラスを手渡しながら、中身はフルーツブランデーだとマルタンさんが教えてくれる。
マルタン「この辺りの島で採れた葡萄で作ったブランデーだよ。飲みやすいから大丈夫」
○○「フルーツブランデー……おいしそうです」
マルタン「じゃあ俺達の再会に乾杯ってことで」
私達はグラスとグラスを触れ合わせ、今日の日のことを祝った。
フルーツブランデーは、マルタンさんが言った通り、甘くて爽やかな味をしていた。
マルタン「どうだい? 嫌いな味じゃなかった?」
○○「本当にとっても飲みやすいです」
マルタン「夏の海に似合う、爽やかだけど優しい味わいのお酒だろう? まるで君みたいな、ね」
○○「え……!」
私が驚きの声を上げたのとちょうど同じタイミングで、船が高波によって突然揺れた。
○○「っ……」
マルタン「おっと」
バランスを崩しかけた私の腰を、マルタンさんがさりげなく支えてくれる。
○○「あ……ありがとうございます……」
マルタン「どういたしまして」
つい意識してしまう私とは裏腹に、マルタンさんはあっさり私から手を離した。
(あ……)
その自然な所作は、やっぱり大人びていて……
(マルタンさんから見たら、私はまだ子どもなのかな……)
マルタン「船酔いは、大丈夫かい?」
まるで私の気持ちを見越したかのように、尋ねながらマルタンさんが瞳を覗き込む。
(なんだか……ちょっと悔しいな)
私の胸には、淡い恋の期待がくすぶるのだった…-。