第2話 からっぽの心

(なんだか、懐かしいな)

初めて訪れたはずの街の中で、私はふと足を止めた。

言祝「どうしたの?」

不意に覗き込まれて、ハッとする。

息がかかりそうなほど近くに言祝さんの綺麗な顔があった。

〇〇「いえっ!すみません」

胸の高鳴りを抑えて、再び街並みに視線を戻す。

〇〇「私の、元いた世界に似ているんです」

言祝「へえ」

言祝さんは興味深そうに目を瞬かせた。

言祝「どういうところが似ているんだい?」

〇〇「高層ビルとか、あと、街路樹とか・・・あ、あそこ!お祭りの屋台みたい!」

通りの向かい側に見えた露店を指差して、思わず声を上げてしまう。

言祝「そう」

言祝さんは目を細めながら、はしゃぐ私を静かに見つめている。

(・・・もしかして)

〇〇「その、言祝さんはあまり楽しくありませんか?私、無理させてるんじゃ」

私の言葉に、言祝さんがきょとんとする。

言祝「・・・楽しい、か」

言祝さんの眼差しが、興味深そうに私を見つめていた。

言祝「君は明るい人だね」

くすくすと笑う、彼の手がそっと伸びる。

指先が微かに私の首元に触れた。

言祝「・・・首元が少し寂しいかな」

〇〇「え?」

そうつぶやくと、彼はそのまま私の手を引き、歩き始めた。

・・・

・・・・・・

そして私達がたどり着いたのは、街の大きなジュエリーショップだった。

ショーケースに入った色とりどりの宝石を見て、私は何度もまばたきを繰り返していた。

言祝「ほら、これなんて似合うんじゃないかな?」

〇〇「これは・・・」

胸元で輝く、品のいいエメラルド。

(素敵だけど、これって)

言祝さんは私の返事を待たずに、すでにお会計を済ませてしまっていた。

言祝「遠慮しないで」

困惑する私を見て、彼は満足そうに微笑む。

前を歩く言祝さんの背中を見つめながら、私は申し訳なさに小さく息を吐いた。

〇〇「高価なものなのに・・・・ありがとうございます」

言祝「気にしないでいいよ。俺がプレゼントしたかっただけ」

〇〇「ではせめて私もお礼がしたいです。 言祝さんは、何か欲しいものとか、好きなものとかありませんか? 私でもできること、になっちゃいますけど・・・」

私のその言葉に、言祝さんが振り返った。

言祝「特にないかな」

〇〇「えっ・・・」

同じく立ち止まる私に、困ったように微笑んでみせた。

言祝「欲しいものも、好きなものも」

静かに近寄って、エメラルドの輝きにそっと指を添える。

言祝「本当に、ないんだ。 俺は、からっぽな人間だから」

(言祝さん?)

言祝「君をこうして、もてなしているのも・・・」

そこまで言うと、言祝さんはハッとして言葉を切った。

言祝「ごめん。本当に俺が君にあげたかっただけなんだ。気にしないで」

なんでもない、というふうに微笑む言祝さんの表情がどこか寂しそうで・・・

その表情から目を離せずにいたその時・・・-。

街の人1「ほら、今日もたくさん。メイの国からの入国者よ」

街の人2「さすが、アマツだなあ。いくらメイに連れて行かれても、すぐ取り返してくる」

その声の方を見やると、城の兵士と思われる人達に囲まれて、幾十人の人達がぞろぞろと行進していた。

〇〇「あれは・・・?」

言祝「・・・」

言祝さんは、少し怖い顔でその行列を見つめていたけれど・・・―。

言祝「・・・なんでもないよ。さあ、城に戻ろう」

そう言って私の背中に手を添えて、歩くことを促す。

(いったい・・・)

言祝さんに問いかけようとしても、穏やかな微笑みに、なぜだか「聞くな」と言われているような気がして、私はそれ以上、何も聞くことができなかった・・・-。

<<第1話||第3話>>