第4話 カストルとポルックス

カストル「それで……アイツは君に何て言ってたんだい?」

ポルックスさんのことについて問いかけるカストルさんに、私は…ー。

伝えていいものかどうかがわからず、私はカストル王子の瞳をじっと見つめた。

すると……

カストル「教えてくれないか? 僕はもちろん、ポルックスのことは知っている」

躊躇いは残るものの、私は口をゆっくりと開く。

◯◯「ポルックスさんは、私が余計なことをしたと、そう言っていました」

カストル「そうか……ポルックスがそんなことを」

カストル王子は腕組みをしながら壁にもたれかかり、視線を伏せた。

カストル「僕のせいだね」

◯◯「え?」

ぽつりとつぶやかれた言葉に、思わず聞き返してしまう。

◯◯「……どういうことですか?」

カストル「……」

カストルさんは、ゆっくりと瞳を開いて、私に向き直った。

カストル「僕はね、弱い人間なんだ」

◯◯「……弱い人間?」

そう聞き返すと、彼は困ったように笑った。

カストル「昔から、僕はこの国の唯一の王位継承者として育てられた。 やがてはこの国の王座に就くために……でも。 僕は、体も心も弱かった。 両親の……周囲からの期待に応えようとすればするほど、それに反して僕の体は悪くなっていった。 いつしか、公務をする時間より、一日をベッドの上で過ごす時間の方が多くなってしまった。 ……自分が情けなかった。もっと強い体が……心が持てたら、と。 ううん、それだけじゃない。僕は周りが憎かった。なぜ僕にこんなに期待をするのかって。 いっそ失望された方が、どんなに楽なんだろうと……」

◯◯「カストルさん……」

カストル「その抑圧された魂が内に籠り、いつしか僕の中に、僕とは正反対の魂が生まれていた」

◯◯「それが……ポルックスさん?」

カストルさんは、ゆっくりと頷いた。

カストル「彼は僕の抱える弱さや戸惑い、諦め……そんな負の感情をずっと請け負ってきたんだ。 ポルックスのあの言動は、本当はきっと僕が望んでいることなんだ。なのに……」

淡々と話す口調とは裏腹に、カストル王子は、沈痛な表情を浮かべている。

カストル「君は城の皆がアイツをどう思ってるか知ってるかい?」

ーーーーー
執事「あの、疫病神め……」

侍女「まあ。あの厄介者……カストル王子が、お可哀相だわ」
ーーーーー

◯◯「……はい」

カストル「僕の代わりに、アイツが皆に責められているなんて、おかしいよね」

カストルさんの瞳が、潤んだような気がして…ー。

気がつくと、私の両手は彼の手を包んでいた。

◯◯「そんな顔をしないでください」

カストル「◯◯……」

カストルさんの綺麗な手が、私の手をそっと握り返す。

カストル「ポルックスのことを……君はどう思った?」

◯◯「……わかりません。ただ」

ーーーーー
ポルックス
「……」
ーーーーー

◯◯「ポルックスさんは……悲しそうな顔をしていました。 それが、忘れられなくて……」

カストル「……君は優しい人だね。ありがとう、ポルックスのことを心配してくれて」

耳元に届いたカストル王子の声は小さく、悲しみに沈んでいた…ー。

……

翌日、私が客間を出ると、回廊を堂々と闊歩する王子の姿があった。

(あの感じは……ポルックスさん?)

◯◯「……ポルックスさん」

ポルックス「……」

思い切って声をかけると、ポルックスさんがうろんそうな目を私に向ける。

◯◯「あの……私、昨夜カストル王子にあなたのことを聞きました。 あなたは…ー」

ポルックス「カストルの負担になることはやめろ」

ぴしゃりと、冷たく放たれた言葉に二の句が口を出ない。

ポルックス「これ以上、余計なことをするな。さもないと…ー」

◯◯「……!」

両手首を乱暴に掴まれ、壁にそのまま背中を押し当てられた。

◯◯「ポルックスさ…ー」

カストル「お前も、俺がめちゃくちゃにしてやるよ…… !」

抵抗しようとしても、強い力で抑えつけられ、びくともしない。

ポルックス「わかったな」

そう言うと、ポルックスさんは私の両手首を解放した。

◯◯「……」

ポルックス「ハッ! 怖いか? ならもうカストルには近づくな。 この国から……出て行け」

ポルックスさんは踵を翻し、その場を去っていった。

(怖かった……?)

抑えつけられていた手首には、まだじんとした痛みが残っているけれど、私はポルックスさんに不思議な感覚を覚えていた。

(ポルックスさんはカストルさんを守ろうとしているんだ)

(二人の力になりたい……)

遠ざかるポルックスさんの背中を見つめながら、私は胸元をただ握りしめた…ー。

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