第3話 王子の言葉

ポルックス「せっかく邪魔者がいなくなったんだ。さっきの続きをしようぜ?」

◯◯「……っ」

王子の指が、私の首筋をなぞった時…ー。

執事「◯◯様!」

慌てて部屋を出て行った医師と入れ代わりのように、初老の執事さんが入ってきた。

執事「ポルックス……その方を離しなさい!」

ポルックス「ちっ……次から次へと」

ポルックスさんは面倒臭そうにため息を吐きながら、私の体に絡ませていた腕を離した。

執事「申し訳ございません……さぞ驚かれたことでしょう。 ◯◯様にはお話がございます、どうぞこちらへ」

◯◯「は、はい……」

早鐘を打つ胸を押さえながら、執事さんの元へ歩き出そうとした時…ー。

ポルックス「ふん……」

(ポルックスさん?)

先ほどまで自信たっぷりに、意地悪そうに私を見ていた彼の表情に、

どこか悲しさが滲み出ている気がしたけれど…一。

ポルックス「……」

すぐに彼は、ふいと私に背を向けてしまう。

◯◯「……」

その表情が気になったけれど、私は執事さんに促されるまま、部屋を出た…ー。

執事「……お話しておらず、申し訳ございませんでした」

執事さんは眉をひそめながら、国の抱える内情を話し始めてくれた。

数年前より、王子には二つの魂が宿っていること。

先ほどのポルックスさんは、カストルさんとは正反対の、横暴で手に負えない性格をしていること……

執事「なぜ、突然ポルックスが現れたかはわかりません……ただ。 ポルックスはカストル様の未来を、めちゃくちゃにしています」

◯◯「めちゃくちゃに……?」

執事「ええ……」

執事さんは厄介者を見るような視線を、ポルックスさんのいる部屋に向ける。

執事「議会の場で暴れたり、街に出ては酒を飲んで喧嘩をしたり……。 ポルックスは、カストル様の品位を貶めることばかり繰り返しているのです。 あの、疫病神め……」

◯◯「……」

……

胸の奥がもやもやしたまま、その日は城の客間で夜を明かすことになった。

(カストルさんと、ポルックスさん……確かに、まるで違う二人だけど)

ーーーーー
ポルックス
「……」
ーーーーー

(あの、悲しそうな顔が忘れられない)

ポルックスさんの表情を思い出しながらも、私は次第にまどろんでいった…ー。

……

その翌日…ー。

中庭を吹き抜ける風に、頬が気持ちよく撫でられる。

さわさわと揺れる草花を見ながら、私はカストルさんとポルックスさんのことを考えていた。

(気になるけれど……)

会いにいこうかどうか悩んでいると、ふと噂話が聞こえて来た。

侍女1「どうやらポルックスは健在だったとか」

侍女2「まあ。あの厄介者……カストル王子が、お可哀相だわ」

ポルックスさんのことは、既に城中の人々に知れ渡っているらしい。

(ポルックスさん……)

気づくと私は、王子の部屋に向かっていた…ー。

王子の部屋の前に辿りつき、おそるおそるノックをすると…ー。

??「……どうぞ」

部屋に入ると、王子は背を向けて窓辺から城の外を見ていた。

私は……

◯◯「……カストルさん?」

カストル「君か……おはよう」

優しげな笑みを浮かべ、カストル王子がこちらを振り向いた。

◯◯「……体の具合はいかがですか?」

カストル「もう大丈夫、心配してくれてありがとう」

柔らかく微笑む彼は、昨日とはまったく様子が違う。

(二重人格……本当なんだ)

ーーーーー
ポルックス
「お前か? 余計なことをしてくれたのは……」
ーーーーー

不意に、ポルックスさんの言葉が頭によみがえる。

(あの言葉は、どういう意味だったんだろう?)

じっと考え込んでいると……

カストル「もうポルックスには、会ったんだよね?」

そう問いかけるカストル王子の声色があまりに悲しそうで、私は…一。

◯◯「……はい。会いました」

カストル「そう。アイツに何もされてない? 大丈夫?」

◯◯「わ、私は大丈夫です」

(キスされそうになったけど……)

さすがにそのことが言えず、曖昧に返事をすると…ー。

カストル「……厄介なことに君を巻き込んでしまったね」

カストルさんは瞳を曇らせながら、申し訳なさそうにうつむいた。

◯◯「いえ……私は大丈夫ですから、そんなに気を使わないでください」

カストル「……ありがとう」

カストルさんはしばらく考え込むような素振りを見せていたけれど、

やがて、意を決したかのように口を開いた。

カストル「それで……アイツは君に何て言ってたんだい?」

窓から吹き込む風に吹かれ、カーテンがはためいていた…ー。

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