第2話 初めて見た女性

穏やかな昼下がりの森の中…-。

(ど、どうして……!?)

私の胸元に触れたままのカノトさんの手に、困惑してしまっていると…-。

カノト「ねえ、女の人って、どこも柔らかい?」

〇〇「……えっ」

やっと胸から彼の手が離れたけれど、動揺してうまく言葉を紡げない。

(カノトさんって、一体……)

目を瞬かせていると、カノトさんと同じような着物を着た男性が慌てて駆け寄ってきた。

??「カノト様!! ご無事……っ!」

従者と思われるその男性は、私の様子を見て全てを察したようだった。

従者「もしやカノト様が失礼を……! 申し訳ありません、〇〇様。 なにぶん、カノト様は初めて女性にお会いしたものですから」

〇〇「えっ……?」

にわかには信じられなくて、小さく声をあげる。

カノト「きみ、女性……母さんと、違う……」

従者「酉の一族は男系でございまして、奥様を亡くした旦那様はカノト様をそれはもう可愛がられ。 城の外に出さずに、ずっと城内でお育てになられ……今に至るのでございます。 ですので、世間知らずと言いますか……本当に申し訳ありません」

ちらりとカノトさんを見ると、にこにことした邪気の無い笑顔が向けられた。

(本当なんだ……)

従者「助けて頂いたお礼に、我が国へと招待いたしたいのでございますが、お越しいただけますか?」

〇〇「はい。よろしければ……」

従者「では改めまして使者より、ご連絡いたします」

カノト「絶対、来て」

カノトさんがキラキラ輝く笑みを浮かべて誘ってくる。

(びっくりしたけど……こんなふうに真っ直ぐに接してもらえると、嬉しいな)

突然の出来事にまだ胸は小さく鳴っていたけれど、私は快く頷いたのだった…-。

……

それから数日後、私は正式な使者の招待を受け、こよみの国・九曜の街へと向かった。

カノト「〇〇……」

廊下まで迎えに出てきてくれたカノトさんは、前に会った時と少し様子が違っていた。

〇〇「お久しぶりです。カノトさん」

カノト「う……うん」

最初に会った時のような大胆な行動はなく……

今はかくれんぼをしている子どものように、従者さんの後ろに隠れもじもじとこちらをうかがっている。

(どうしたんだろう……?)

カノト「この間、あの……ごめんなさい。触っちゃいけないって聞いた。 話に聞いた母さん。きみに似てる……母さんと思った」

(ああ……それで恥ずかしがってるんだ。可愛いな)

反省するけなげな様子に私は口元を綻ばせた。

〇〇「大丈夫、最初は驚いたけれど、もう気にしていません」

私の言葉にカノトさんの瞳が、ぱあっと明るくなる。

〇〇「今日は招待してくれて、ありがとうございます」

カノト「きみ、いい人……もっと、話したい。元気、出る」

ひょこっと、ようやく従者さんの後ろから出てきてくれて……

(カノトさんって……女の人と話したことがないんだよね)

ほっとしたのも束の間、そのことを思い出して私の方が少し緊張してしまう。

カノト「ねえ、お話しよ?」

〇〇「……はい。じゃあ……」

(……どんな話をすればいいのかな)

〇〇「動物は好きですか?」

カノト「うん、好き。怖いのは苦手だけど」

〇〇「それは、私もです」

カノト「そうなったら、僕が助ける」

〇〇「ありがとうございます」

長いまつ毛を震わせるようにして、カノトさんは輝く笑みを浮かべた。

彼の表情の一つ一つは切り取られた絵のように美しく、目を奪われてしまう。

(本当に綺麗……)

その後も話をしていると……

急に、私の腕にカノトさんが柔らかな髪を揺らしながら飛びついてきた。

〇〇「……っ!」

ふわりと甘い、お菓子みたいな匂いが鼻をくすぐる。

カノト「きみ、好き」

小鳥がさえずるように、カノトさんが嬉しそうにつぶやく。

思わず頭を撫でそうになって、手を引っ込めた。

(失礼……かな? でも、撫でたくなるくらい可愛い……まるで雛鳥みたい)

カノトさんはふわりと髪の毛を揺らしながら、濁りのない綺麗な瞳で私をじっと見つめてくる。

真っ直ぐな好意の言葉と無邪気な触れ合いに、私の心は温かくなった…-。

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