第3話 フィンガーボウル

ハープが天上の光のような音楽を奏でている…-。

パーティーは華やかに続いていた。

ジョシュア「もうパーティーには慣れたかな?」

ジョシュアさんが、優しく微笑みながら私に声をかけてくれる。

ジョシュア「この国の料理は口に合う?」

○○「まだ緊張してしまっていて、なんだか胸がいっぱいで」

ジョシュア「さっきも言ったけど、そんなに緊張する必要はないよ」

やがて、骨付きの肉料理と一緒に、薄紅茶色の水が入った小さなボウルが運ばれてきた。

(あ、あのお花が浮かんでる)

ボウルの中に浮かんでいるのは、この国に来たときに紅茶の香りを漂わせていた、薄紫色の花だった。

その香りを嗅ごうと、そっと顔を近づけた時…-。

女の子「おひめさま、それは手をすすぐお水です」

リボンをつけた小さな女の子が、たしなめるように言った。

紳士「こらっ、何てことを……!」

お父様と思われる男性が、真っ青な顔をしている。

女の子「だっておとうさま、おひめさまが飲んでしまったら大変だもの」

女の子は口をすぼめて、言い訳をする。

(香りを嗅ごうと思っただけだけど……飲んでしまうと思われたのかな?)

女の子「ごめんなさい、おひめさま……あまりお食事になれていないのかとおもって。 お食事がはじまったときも、すこしこまってたみたいだから……」

(……!)

恥ずかしさに頬が染まっていくのがわかる。

○○「い、いいえ、そんな……教えてくれて、ありがとう」

紳士「娘が失礼を……! どうかお許しください」

ジョシュア「……」

(私がマナーをきちんとしていなかったから)

場内にざわめきが広がり、消えてしまいたくなる。

すると……

ジョシュア「少々、喉が乾いてしまいました」

ジョシュアさんはそう言って、おもむろにボウルの水を飲み干した。

○○「ジョシュアさん……!?」

ジョシュア「なるほど……はじめて飲みましたが、素敵な発見がありました。 我が国では、フィンガーボウルにも上質なアールグレイが使われているようですよ。 料理長の粋なはからいに、褒美を与えなければなりませんね」

ジョシュアさんが会場中に悪戯っぽく微笑みかける。

ざわめきは和やかな笑いに変わり、皆さんが我先にとフィンガーボウルの香りを嗅いだ。

ジョシュア「○○姫と、そちらの可愛らしいお嬢さんのおかげです。 お二人の無垢な感性に」

ジョシュアさんがグラスを優雅に持ち上げ、私達のために乾杯が行われる。

(ジョシュアさん……私に恥をかかせないように気を遣ってくださったんだ)

恥ずかしさといたたまれなさで、私の胸は重く沈んでいった。

(私……お姫様なんて呼んでもらってるけど、ふさわしいマナーを身につけてない)

(せっかく招いてくださってるのに、ジョシュアさんにも恥をかかせてしまっている)

視線を感じると、ジョシュアさんが薄緑色の瞳にじっと私を映し出していた。

○○「私……ちゃんとします」

ジョシュア「大丈夫。皆気にしてないから。ほら、笑って」

少し困ったように、柔らかい笑みを私に向けてくれる。

ジョシュアさんにそう言われ、私はなんとか笑顔を作った。

(自分が、情けない)

そうして食事は滞りなく続く。

やがてデザートと一緒に運ばれてきたワインは、ピーチティーのような甘い香りがした。

紳士「先ほどは娘が大変失礼致しました。こちらのデザートワインをお詫びの印に」

○○「いえ、お詫びなんてそんな……」

紳士「私の領地で作られたワインです。どうぞ召し上がってください」

(どうしよう。だいぶ酔いが回ってきてしまっているけど)

(お断りするのは、悪いし)

○○「では……いただきます」

笑顔を浮かべて、グラスに口をつける。

(甘くておいしい)

(でも……目がまわる)

ジョシュア「……大丈夫?」

(しっかり、しないと…-)

シャンデリアの輝きが遠ざかっていく。

ジョシュア「○○……っ!」

遠ざかる意識の中で……誰かに抱きとめられたような気がした…-。

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