第3話 洗礼の儀

その翌日…―。

私はアフロスの婚姻の女神からトロイメアの姫として洗礼を受けるために、神殿の横に設けられた宿舎で衣装に着替えていた。

(衣装ってこれ……ウェディングドレスだよね)

鏡に映った純白のドレスを着た自分に、何故だか赤面してしまう。

その時、部屋の扉がノックされた。

アヴィ「入るぞ、いいか?」

○○「……!」

その声に一瞬、胸が大きく鳴った。

○○「アヴィ、迎えに来てくれて、ありがとう……」

どうしてかアヴィの顔が真っ直ぐ見られない。

アヴィ「……」

私はうつむいたまま、彼に……

○○「似合ってる……かな?」

アヴィ「……あ、ああ、悪くない、馬子にも衣装ってやつだ」

○○「馬子……」

アヴィ「いや、そうじゃない! 言い方が悪かった。 ……その……いいと思う」

顔を上げると、アヴィは口元を押さえたまま顔を真っ赤にしていた。

○○「アヴィ……?」

アヴィ「いや……。 何でもない。さ、行くぞ」

○○「っ!」

ひったくるようにアヴィが私の腕を掴む。

力強い大きな手は思ったより熱くて、目の前を歩くアヴィの顔は、やっぱり真っ赤で……

(何を思ってるんだろう……)

胸の高鳴りは、大きくなるばかりだった…―。

アヴィにエスコートされるまま、私は神殿へとやってきた。

大勢が頭を垂れるなか、彼の手に手を重ねて祭壇へ。

いざ、厳かなる洗礼の儀へ…―。

アフロスの神官「この者に、母と子と聖霊の御名によって洗礼を授けたまえ…―」

○○「…………」

祭壇に設えた杯より、神官が数適の水を私の額へ落とす。

――その時だった。

祭壇で聖水により満たされた水鏡が、波紋を描き、光を放ち始めた。

アフロスの神官「おお、これは……!」

洗礼の儀を執り行っていた神官達の間にどよめきが起こる。

アフロスの大神官「なんたる僥倖か……! 中に、姫様の運命の人がいらっしゃるようです」

○○「え……!?」

大神官の声に、参列者にまで波紋が広がった。

参列者1「なんと、あのトロイメアの姫君のお相手がこの場に?」

参列者2「それはなんとめでたい、一体どこの王子か!?」

ざわめきが大きくなる中、私は後ろに控えたアヴィを振り返った。

アヴィ「……」

王子として動揺を見せない姿に私は……

そのまま彼の顔を見ていることができなくて、視線を逸らす。

アヴィ「……」

動揺してるのは私だけのような気がして、何故か胸が痛かった。

なんとか心を落ち着かせて、神官の言葉を待つ。

アフロスの神官「トロイメアの姫君、よくお聞きなさい……洗礼を受けた二日後、女神の力が最も強まります。 そのとき、運命の相手と揃って婚姻の儀を執り行い、祝福を再び授けましょう。 そのことにより女神の愛は世にあふれ、世界にも婚姻の祝福が等しく授けられるでしょう……」

突然のことに、粛々と述べられる言葉もうまく頭に入ってこない。

そっと神殿の参列者へと視線を送れば…―。

(あれは……)

アヴィ「あいつは確か……」

??「……」

昨日、妙な視線をこちらに投げかけ、アヴィによって退けられた男性が、

こちらを熱病にかかったような目で見ていた。

(なんだろう……怖い)

生理的な嫌悪感に、胸元で手を握りしめる。

アフロスの神官「……姫、トロイメアの姫君、聞いておられますかな?」

○○「……っ、はい」

神官の声に呼ばれ意識を戻す。

アフロスの神官「その二日後を前に、運命の相手を探すのです。 この水鏡の前に二人で立ったとき、その姿が映し出された者がそなたの運命の相手となるでしょう」

○○「水鏡に映った人…―」

こうしてその日より、さらなる儀式のため、

私の運命の相手探しが行われることとなったのだった…―。

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