第2話 ときめきと寂しさ

しばらくして…―。

神殿は、世界中から招待された王族達であふれかえった。

儀式は、アフロスの神官により、しめやかに執り行われてゆく。

やがて婚宴の儀は滞りなく終了し…―。

各国の代表が顔を合わせる社交界へと場は移った。

(ようやく終わった……)

長らく厳粛な雰囲気に包まれていたせいか、ほっと息をつく。

アヴィ「大丈夫か? お前、婚宴の儀に招待されたのは初めてだったんだろ?」

○○「うん、すごく緊張した……」

アヴィ「そうか、アフロスは歴史も古くて特に厳格だからな。 ……ここからは少し肩の力を抜いてろ」

○○「ありがとう」

ごく自然に、アヴィの手が私の背を叩いた。

一瞬のことなのに、大きな手の温度をむずかゆく感じる。

同時に、少しだけ呼吸がしやすくなる。

(気を使ってくれたのかな?)

いつもはもっと飾らない、粗野な態度が目立つ。

けれど大勢の人々が集う煌びやかな立食パーティーの中で、正装に身を包んだ彼の姿は、王子然としていた。

他国の王太子「これはこれはアヴィ王子、お変わりなく」

他国の女王「昨年の剣術大会ではお見事でしたわ」

アヴィ「ありがとうございます」

こうして横に立っているだけでも、先ほどからアヴィの元には様々な人が挨拶にくる。

(アヴィ、すごいな……)

しっかりとアルストリアの代表として責務を果たす姿に、少しときめいて、だけど……

○○「……」

少しだけ寂しさも感じる。

話が盛り上がる中、そっと席を離れて壁の花を演じる。

するとしばらくして……

話を切り上げたアヴィが私の元へとやってきた。

アヴィ「どうしたんだよ、疲れたのか?」

彼の不器用な問いかけに……

○○「少しだけ……」

アヴィ「……別室にでも下がってるか?」

○○「ううん、もう平気、アヴィの顔見たら元気戻ってきたから」

アヴィ「ならよかった、お前の出番は明日だろ?」

○○「うん」

婚宴の儀を執り行った神殿で、明日、私はトロイメアの姫として洗礼を受けることになっている。

○○「上手くできるといいけれど」

アヴィ「お前なら大丈夫だ。けど……」

アヴィは軽く息を吐き出して、苦笑する。

アヴィ「そろそろ堅っ苦しい雰囲気には、俺も限界がきてたところだ。 やっぱ、俺にはパーティーより、外で剣術の稽古をしてる方が向いてるよ」

○○「そうかもしれないね」

お互いの顔を見て困ったように笑う。

世界中の王族が参列する会場で、アヴィは私と同じ気持ちを共有してくれている。

そう思うと、胸に溜まっていたもやが晴れていった。

だけどその時、不意にアヴィの表情が厳しくなった。

アヴィ「……」

(どうしたんだろう?)

同時に何か嫌な視線を感じ、後ろを振り向くと、こちらを見ている長身の青年と目が合った。

アヴィとちょうど同じ年頃の青年は、こけた頬に妙な笑みを浮かべている。

○○「……?」

けれどアヴィがきつく睨むと、青年はそそくさとその場を去ってしまった。

アヴィ「あいつは確か……」

そうつぶやいたアヴィの口元は、苦々しく閉じられていた…―。

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