第3話 ドーナツと、幸せと

大通りの露店には、かわいらしいお菓子やアクセサリーが所狭しと並んでいる。

その光景は、見ているだけで楽しくなってくるもので……

○○「見てください、ペルラさん。 あのお菓子、かわいらしいお化けの形ですね」

自然と声が弾んでしまう。

すると…―。

ペルラ「ん……」

ペルラさんの瞳は、お菓子ではなく私を映し出していた。

ペルラ「きみ……楽しそうだね」

(あ……)

ペルラさんに言われて、浮かれていた自分にハッとするものの……

ペルラ「……」

その綺麗な顔に優しい微笑みが広がり、私の心はますます緩んでいく。

○○「……楽しいです。一年に一度の収穫祭ですし、それに、ペルラさんが一緒ですから」

ペルラ「……ぼくと?」

彼は驚いた様子で、透き通った瞳をしばたたかせた。

(今……大胆なことを言ったかも)

瞬時に頬が熱を持っていく…―。

○○「そ、それは……えっと……」

ペルラ「……?」

どうすればいいのかわからずにいると、ペルラさんは不思議そうに首を傾げた。

その時…―。

屋台店主「そこのお熱い二人! プレゼントだよ!」

ペルラ「え……?」

振り返れば、屋台の店主さんが、揚げ立てのドーナツを私達に差し出している。

屋台店主「ほれ、持っていきな! 若い二人にゃ妬けちまうねー!」

恥ずかしくなりながら隣を見れば、ペルラさんも微かに頬を染めていた。

○○「あ、あの。ありがとうございます!」

店主さんの厚意にお礼を言い、私はドーナツを受け取った…―。

……

その後、通りにあるベンチに二人腰かけて…―。

ペルラ「まだ熱い……これ、食べるの面倒だな」

熱々のドーナツを手にしたペルラさんが、ため息を吐いた。

○○「でも、すごくおいしそうですよ。あったかいうちに食べてみませんか?」

ペルラさんを促すように、ドーナツを一口かじってみる。

揚げ立てのカリッとした食感に、まぶしてあった砂糖の甘みが口いっぱいに広がって…―。

○○「おいしい……!」

ペルラさんはじっと私を見つめていた。

○○「ペルラさん? すごくおいしいですよ」

ペルラ「あ……うん」

彼もゆっくりとドーナツを持ち上げ、そのまま口へと寄せる。

けれど……

ペルラ「……っ」

顔をしかめたペルラさんを見て、ハッとする。

(そういえばペルラさん、猫舌だった……!)

○○「ごめんなさい! ペルラさんが猫舌なのを忘れていて…―」

ペルラ「……おいしいから、いいよ」

言葉数こそ少ないものの、ドーナツを食べるペルラさんの表情は幸せそうだった。

(ちょっとずつかじってる……かわいいな)

ペルラ「……何、じっと見てるの」

○○「あ……ペルラさんのそんな顔、初めてみるかもって思って」

ペルラ「……どんな顔」

○○「幸せそうな顔です」

ペルラ「幸せ……まあね。ドーナツ、おいしいし。 何より、こんなふうに外で遊ぶことなんか滅多にないから」

(あ……)

なんでもないように言うペルラさんの言葉に、私はまた息を呑む。

(ペルラさん……)

彼があまり外に出たがらないのは、面倒だから……という理由だけではない。

ペルラさんの一族の流す涙は高価な真珠に変わり、それを狙う輩が後を絶たないためだった。

(……誘拐されたこともあるって、言ってたよね)

軽率な発言をしてしまったことを後悔していると…―。

ペルラ「でも、初めてってことはないんじゃない?」

私の方に顔を向けたペルラさんと視線が交わる。

ペルラ「特に、きみは誰よりもたくさん見てるはずだけど。ぼくの幸せそうな顔」

○○「え……?」

首を傾げると、ペルラさんは少しだけ拗ねたような声を出した。

ペルラ「なんで不思議そうな顔するの。あたり前でしょ。 きみはさっき、ぼくと一緒だから楽しいって言ったけど……。 それ、ぼくも同じだから」

○○「っ……!」

少し気恥ずかしそうにしながらも、ペルラさんは素直にそう伝えてくれた。

もう一口ドーナツをかじると、胸の奥がじんと熱くなったのだった…―。

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