第5話 憧れの、アリス……

トランピア衛兵「ここだ! アリスを見つけたぞ!!」

◯◯「え!?」

ハーツ
「……マズイ、母上の近衛兵だ、逃げようぜ!」

私達の姿を発見した衛兵達が、カフェに侵入してきた…一。

私達は近衛兵に追われ、街中を逃げ回った。

トランプ兵「ハーツ王子! お待ちください!!」

ハーツ「待てって言われて、待つワケねえだろ!!」

ハーツ君に手を引かれ、全速力で駆ける…一。

……

ハーツ君の機転のおかげでなんとか撒くことに成功して、街から離れた花畑でようやくひと息つく。

ハーツ「ははっ、アイツらの慌てた顔ったら、なかったな!」

◯◯「でも、ドキドキして……怖かった……」

ハーツ「そうか? 屋上から落としたゴミ箱被った様子なんて、すっごくおかしかったし」

◯◯「あれはハーツ君のタイミングが抜群だったからだよ」

ハーツ「小さい頃から、よく城脱走して遊んでたから、ああいうのは得意」

得意げに言って、ハーツ君が明るい笑い声を響かせる。

私もその声に合わせるように笑って、やがて私達は花畑に寝転がった。

ハーツ「草の匂いがする……」

◯◯「うん」

一言だけ言葉を交わして、じっとお互いの顔を見つめる。

走り回ったせいか、上気した頬に、ほんのりと汗が浮かんでいた。

ハーツ「アリス……」

甘えるような声が、私の耳に溶けいるように入り込む。

◯◯「ハーツ君……?」

ハーツ「なんでもない、名前呼んでみたくて……」

照れくさい微笑みが、口元に浮かんでは消えて……

その表情が、私の心を少しだけ苦しくさせた。

(その名前は、私のものじゃない)

(本当の名前を呼んで欲しい、なんて……)

じっと見つめていると、ハーツ君の手が伸ばされて…ー。

◯◯「……っ」

彼の指先が愛おしそうに、私の頬を撫でた。

ハーツ「俺の目の前に……ずっと憧れてたアリスがいるなんて……」

◯◯「……」

切望と柔らかな恋心に満ちた声音に、ぎゅっと胸を締めつけられて、私は…一。

◯◯「ごめんね……私がアリスじゃなくて」

無垢な瞳に、心が声になって漏れてしまった。

ハーツ「……? どうしてだよ?」

地面を覆う芝生の上で、何かに耐えるように指先へ力を入れる。

◯◯「私は……やっぱり」

その時…ー。

トランピア衛兵1「見つけたぞ! 店の客の密告通り、王子も一緒だ」

花を踏み荒らして、先ほどの衛兵達が姿を現した。

ハーツ「なっ!?」

トランピア衛兵2「女王様の命により、城までご同行願います、王子」

トランピア衛兵1「この者が本物の『アリス』ならば、法に基づき処刑せねばなりません!」

◯◯「処刑!?」

ハーツ「そんな……!」

衛兵の鋭い言葉に、私達は目を見開く。

あっという間に衛兵に取り押さえられ、私はハーツ君から引き離された…ー。

<<第4話||太陽覚醒へ>>||月覚醒へ>>