トランピア衛兵「ここだ! アリスを見つけたぞ!!」
◯◯「え!?」
ハーツ
「……マズイ、母上の近衛兵だ、逃げようぜ!」
私達の姿を発見した衛兵達が、カフェに侵入してきた…一。
私達は近衛兵に追われ、街中を逃げ回った。
トランプ兵「ハーツ王子! お待ちください!!」
ハーツ「待てって言われて、待つワケねえだろ!!」
ハーツ君に手を引かれ、全速力で駆ける…一。
…
……
ハーツ君の機転のおかげでなんとか撒くことに成功して、街から離れた花畑でようやくひと息つく。
ハーツ「ははっ、アイツらの慌てた顔ったら、なかったな!」
◯◯「でも、ドキドキして……怖かった……」
ハーツ「そうか? 屋上から落としたゴミ箱被った様子なんて、すっごくおかしかったし」
◯◯「あれはハーツ君のタイミングが抜群だったからだよ」
ハーツ「小さい頃から、よく城脱走して遊んでたから、ああいうのは得意」
得意げに言って、ハーツ君が明るい笑い声を響かせる。
私もその声に合わせるように笑って、やがて私達は花畑に寝転がった。
ハーツ「草の匂いがする……」
◯◯「うん」
一言だけ言葉を交わして、じっとお互いの顔を見つめる。
走り回ったせいか、上気した頬に、ほんのりと汗が浮かんでいた。
ハーツ「アリス……」
甘えるような声が、私の耳に溶けいるように入り込む。
◯◯「ハーツ君……?」
ハーツ「なんでもない、名前呼んでみたくて……」
照れくさい微笑みが、口元に浮かんでは消えて……
その表情が、私の心を少しだけ苦しくさせた。
(その名前は、私のものじゃない)
(本当の名前を呼んで欲しい、なんて……)
じっと見つめていると、ハーツ君の手が伸ばされて…ー。
◯◯「……っ」
彼の指先が愛おしそうに、私の頬を撫でた。
ハーツ「俺の目の前に……ずっと憧れてたアリスがいるなんて……」
◯◯「……」
切望と柔らかな恋心に満ちた声音に、ぎゅっと胸を締めつけられて、私は…一。
◯◯「ごめんね……私がアリスじゃなくて」
無垢な瞳に、心が声になって漏れてしまった。
ハーツ「……? どうしてだよ?」
地面を覆う芝生の上で、何かに耐えるように指先へ力を入れる。
◯◯「私は……やっぱり」
その時…ー。
トランピア衛兵1「見つけたぞ! 店の客の密告通り、王子も一緒だ」
花を踏み荒らして、先ほどの衛兵達が姿を現した。
ハーツ「なっ!?」
トランピア衛兵2「女王様の命により、城までご同行願います、王子」
トランピア衛兵1「この者が本物の『アリス』ならば、法に基づき処刑せねばなりません!」
◯◯「処刑!?」
ハーツ「そんな……!」
衛兵の鋭い言葉に、私達は目を見開く。
あっという間に衛兵に取り押さえられ、私はハーツ君から引き離された…ー。