第3話 そうだろ?アリス……

ハーツ「でも前のアリスがいた頃とは、このトランピアもすごく変わっちゃって……。 そうだ! アリス、今のトランピアを案内するよ、いいだろ?」

トランピアの城下街は、建物にネオンボードや派手な看板が施されていて、繁華街のようだった。

(私の知ってる『アリス』のお話は、森や海があって……もっと、古典的なイメージだったけど)

その違和感に首を傾げていると、満面の笑みでハーツ君に顔を覗き込まれる。

ハーツ「行こう、アリス!」

ハーツ君に連れられて、私はトランピアー有名だという、王家御用達のお店にやってきた。

(高級そうな服ばかり……)

だけど彼はそんな中から、かわいらしい青いワンピースを見繕ってくれた。

それは、あの『アリス』が着ていた青いワンピースにそっくりで……

ハーツ「やっぱりアリスはこうでなくちゃな! その恰好、よく似合ってる」

◯◯「そ、そうかな?」

(ちょっと、恥ずかしい……)

気恥ずかしさに頬を染める私には構わずに、ハーツ君は店内に飾ってある帽子を手に取り、被ってみせた。

ハーツ「そうだな、アリスと一緒に歩くなら……俺はマジリスペクトするマッドハッターさんを演じるぜ!」

◯◯「マッドハッターって、あの?」

(お話に出てくるのは、気が狂った帽子屋だったけど……)

ハーツ「そう! あの人、なんでも知っててマジかっけーんだ!! それに、超大人だし! 俺、ハッターさんみたいになりたいんだよ!」

ハーツ君は心ここにあらずといった様子で、憧れのその人を思い描いているようだった。

(なんだか、かわいい)

◯◯「ハートのクイーンや、兵士さんじゃないんだね」

くすくすと笑いながら、ハーツ君に話しかけると……

ハーツ「だって……カッコよくないだろ」

そっと、瞳を私から逸らして小さくハーツ君がつぶやいた。

(なんだか、悪いこと言っちゃったかな?)

◯◯「ハーツく…ー」

彼の顔を覗き込もうとした時、私の手を、ハーツ君が勢い良く取った。

ハーツ「そんなことより、早くお前にいろんなところ見せたい。行こうぜ!」

ぎゅっと握られた手は、男の子らしい、ちょっと骨ばった長い指…ー。

自分の指先で感じた彼の温度が、少しくすぐったかった。

……

ハーツ君は私を、トランピアのいろいろな場所へ案内してくれた。

ハーツ「ここのハートの時計台は、毎時間チャイムと一緒に動くからくり時計が有名なんだ」

ちょうどその時、大きな鐘の音が鳴り響き、精巧な作りの人形達が壁面に現れる。

◯◯「すごい! 思ったより、ずっと大がかりなんだね」

(文字盤はデジタルだけど……)

その他にも、トランピアの街は古めかしいようで、近代的なようにも見えて……

どこかちぐはぐなその街並みに夢中になっていると、いつの間にか姿を消していたハーツ君が、かわいいラベルが貼られた小瓶を片手にこちらへ戻ってきた。

◯◯「これは?」

(童話で『アリス』が飲んでしまった小瓶にそっくりだけど…ー)

ハーツ「飲んでみて。喉、乾くだろ?」

手渡された小瓶を見て……

よく見ると、小瓶のラベルには『DRINK ME』と書かれている。

(やっぱり、これもお話と一緒……)

ためらいながらも、私はその小瓶の中身を口に含んでみた。

◯◯「あっ!?」

ハーツ「どう? ジャック通りの名物、小瓶ソーダ」

爽やかな酸味とともに、口の中で炭酸がはじける。

◯◯「おいしい!」

ハーツ「だろ?」

ハーツ君も同じ小瓶を手にしていて、嬉しそうに私に見せた。

◯◯「でも不思議だね。この国は、私の知ってるアリスの世界とはかなり違うみたい」

ごく自然に、トランピアの街を見渡しながら彼にそう言うと……

ハーツ「……」

ハーツ君は、少し寂しそうに眉を下げた。

ハーツ「うん。昔は不思議でいっぱいだったワンダーメアも、アリスがいなくなってからさ……。 近代化っていうの? 全然変わっちゃったって聞いた。 いつのまにか住んでる人達も、不思議を楽しむ心もなくしちゃって」

午後の穏やかな風に吹かれ、ハーツ君の前髪が静かに揺れる。

◯◯「そんなことがあったんだ……」

ハーツ「だから俺、それが寂しくて。いつか話に聞く『不思議の国』らしさが戻ってこないかなって。 『アリス』がまた戻って来たら、きっとまた楽しくなる……そう、ずっと信じてたんだ」

真っ青な空を見上げ、ハーツ君が目を細める。

小さな頃から夢見た少女の面影を、胸に思い描くように……

(アリスの存在は、ハーツ君にとって本当に大切なんだ)

◯◯「これからきっと楽しくなるよ」

ハーツ君の横顔に切なさが込み上げ、彼を励ますように笑いかけた。

ハーツ「うん! ありがとうな、アリス」

屈託のない彼の笑みが向けられて、胸が小さく音を立てた。

ハーツ「そう遠くない未来で、きっと見れると思うんだ!」

◯◯「え……?」

ハーツ君の手が、私の頬に添えられる。

ハーツ「お前が来てくれたんだから」

大切なものを包み込むように、憧れに満ちた微笑みを浮かべて……

ハーツ「そうだろ、俺のアリス……」

◯◯「ハーツ君……」

彼の温かい手の心地よさに、トクントクンと……

時計台の秒針よりも微かに早く、私の胸が高鳴っていた…ー。

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