第5話 誤解と想い

○○「グ……グレイシア君のお兄さんに、私も会ってみたいな」

そう言って笑いかけると、グレイシア君が鋭い視線を私に向けた。

(え……?)

冷たい風が、氷上に立つ私達の間を吹き抜けていく。

○○「ど……どうしたの?」

グレイシア「……うるさい」

私を支えようと重ねられている手が、そっけなく払われる。

○○「グレイシア君……?」

グレイシア「……お前も兄さんに会いたくて俺に近づいたのか?」

○○「え……!?」

グレイシア君は凍った湖の表面に、じっと視線を落としている。

その様子に…―。

○○「全然違うよ」

グレイシア「皆、兄さんのことばっかりだ。だからお前も…―」

グレイシア君は、ぐっと言葉を飲み込んで、氷上に目を伏せる。

一瞬、赤い瞳を私の方へ向けて、彼が形のいい唇を震わせる。

○○「ごめん……何か気に障ったら」

グレイシア「だから、お前はすぐにそうやって謝るなって」

グレイシア君は、一呼吸置くと、静かに話し出した。

グレイシア「俺の兄さんは、雪の一族でも絶大な魔力を持ってて……王の後継者として本当に優秀なんだ。 実力主義の国だからな、皆兄さんのことを尊敬して、慕ってる。 まあそれはそれでいいんだけど……あんまり、居心地のいいモンではないよな。 俺はいつだって、フロストの弟、としてしか見られないから」

(だからさっき、街でもお兄さんの話が出た時、いなくなって……)

(目覚めた時も、すぐにお城に帰ろうとしなかったのも……)

グレイシア「格好悪いだろ。弟は変な奴だからそういうのは気にしてないみたいだけど、俺は……」

うやむやにされるように語尾が小さくなり、やがて彼は静かにため息を吐いた。

グレイシア「まあいい、お前も兄さんに会いたいってことなら、そろそろ城に顔でも出して…―」

○○「待って、違うの!」

グレイシア君の寂しげな表情に、思わず大きな声が出てしまう。

グレイシア「え?」

○○「私はグレイシア君のお兄さんだから、気になっただけで、私が知りたいのは……その……」

グレイシア君の瞳が、大きく見開かれた。

グレイシア「何だよ?」

○○「だから……グ、グレイシア君、です……」

カッと顔に熱が上がる。

だけど、気恥ずかしさに耐えて正面から見たグレイシア君の顔は……

グレイシア「……」

(嘘……私より、真っ赤なんじゃ……)

グレイシア「……嬉しい」

聞こえるか聞こえないかわからないくらい小さな声で、グレイシア君がつぶやいた。

それ以降、私達は言葉を失い、広い雪原でただ互いの顔を見つめ合っていた…―。

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