第3話 彼の落ち着く場所

来た道を戻り、街を離れると、新雪に残るまだ新しい足跡を見つけた。

(これは、グレシア君の……?)

足跡を追っていくと、雪原の先に氷の張った大きな湖が見えてくる。

○○「あ……」

グレイシア君は、凍った湖の上を器用に滑っていた。

足元に、氷で作られたスケート靴のようなものをつけている。

(あの靴も、グレイシア君が魔法で作ったのかな?)

(なんて楽しそうな表情……)

スピードを出しては満足気な様子で氷の上を滑っていく。

その表情には、先ほど街で見た陰りはもうなかった。

(気持ちよさそうに滑るなあ……)

私はしばらく、彼に目を奪われていた。

アイスショーのような流麗さではないけれど、男の子が楽しそうに、大胆に滑る様子に胸が弾む。

グレイシア「……お前、こんなところで何してる? ……ちゃんと医者に足を見てもらったのか?」

グレイシア君の言葉に、しまったと思う。

彼がいなくなったことに気を取られて、医者に寄るように言われていたのに、寄らないで来てしまった。

(せっかく街まで送ってもらったのに……)

○○「いえ……まだ。でも、もう痛みもないし全然平気です。 ごめんなさい。せっかく送ってもらったのに」

思わず謝ると、グレイシア君は呆れたように、ため息を吐く。

グレイシア「またすぐ謝る。お前が大丈夫なら、大丈夫なんだろ」

○○「……滑るの、好きなんですか」

私の問いに、グレイシア君が面倒くさそうに頭を掻く。

グレイシア「……別に。ずっと寝てたから、体を動かしたくなっただけだ」

そうぽつりと言うと、彼はまた氷上を滑走し出す。

(やっぱり、楽しそう……)

グレイシア「お前さ」

○○「え」

グレイシア「……暇なの?」

投げかけられた言葉に、なんとこたえたものか悩む。

グレイシア「ずっと、俺のこと見て」

○○「そ、それはあんまりグレイシア君が楽しそうに滑るから……」

グレイシア君はわずかに目を見開いて、再び頭を掻いていた。

グレイシア「じゃあ、やってみるか?」

グレイシア君が、湖畔に立っている私のところまで近づいた。

○○「わ、私、スケートしたことないから……!」

慌てて首を左右に振ると、

その様子がおかしかったのか、グレイシア君が目を細めた気がした。

グレイシア「仮にも俺を目覚めさせた奴が、これくらいできないでどうするんだ」

○○「そ、それとは話が違…―」

不意に、彼の手が差し出される。

白いけれど、男性の大きな骨の張った手。

グレイシア「ほら」

意を決してその手を取って、凍った湖の上に足を踏み出すと…―。

私の靴にもスケート靴のような、氷のブレートが現れる。

○○「わ……」

不安定な足元が怖くて、グレイシア君の体にしがみついてしまう。

グレイシア「情けねえな」

私の両腕を支えてくれるグレイシア君が、はっと声を上げて笑った。

○○「絶対、手をはなさないでください!」

グレイシア「ったく。わかったよ」

グレイシア君の腕にぎゅっとしがみついて、どうにか進んでいく。

グレイシア「ちょっと顔、上げてみろ」

○○「え……」

その言葉に、恐る恐る顔を上げてみる。

するとそこは、湖の中央だっだ。

周囲を囲む木々に風が舞い、小さな雪の結晶がきらきらと太陽の光を受けて輝いていた。

○○「綺麗……!」

グレイシア「いい景色だろ? 気に入ってるんだよ、ここ。 嫌なことがあった時もさ、ここに来ると落ち着く」

○○「嫌なこと……?」

思わずグレイシア君の顔を覗き込むと、彼ははっとしたように口をつぐんでしまう。

グレイシア「……何でもない。それよりお前、いい加減自分で滑る努力をしろよ。 でないと、ここに置いてく」

○○「ま……待って! 頑張るから!」

そう答えると、グレイシア君の手が私の背中と左手に添えられた。

グレイシア「いい返事じゃねえか。よし、ちょっと滑ってみるぞ」

口調とは裏腹に、彼が優しくエスコートをしてくれる。

背中から伝わる体温に、心臓がどきどきと音を立てる。

○○「あ……ありがとう! グレイシア君」

心臓の音が聞こえてしまわないように、グレイシア君の方を見上げて笑いかけると…―。

グレイシア「……別に」

グレイシア君の頬が、うっすらと赤くなった気がした…―。

<<第2話||第4話>>