第2話 仕事の鬼

静かな廊下に、フォルカーさんと私の足音がやけに響く…―。

(こうして並んでいると、本当に背が高い)

隣を歩くフォルカーさんを、思わず見やると…-。

フォルカー「何か不審な点でも?」

〇〇「い、いえ何でもありません」

彼の淡白な声に、慌てて私は次の言葉を探した。

〇〇「でも……記録の国のお仕事の話をもっと聞きたいなと思って」

フォルカー「仕事のことを?」

フォルカーさんは立ち止まり、私に向き直った。

〇〇「あ……ご迷惑でなければ」

眼鏡の向こうにある感情のうかがえない瞳で問いかけられ、言い淀んでしまう。

すると…-。

フォルカー「〇〇姫。我が国の情報は機密性が高く、無闇に話をすることはできない。 せっかく興味を持ってくれたのに……すまない」

フォルカーさんの形のいい眉が、申し訳なさそうに下げられた。

(フォルカーさん?)

今まで彼が纏っていた硬い雰囲気、少し和らいだ気がしたけど……

〇〇「すみません、少し考えれば当たり前のことですよね」

(少し軽率だったかな……フォルカーさんを困らせてしまった)

軽はずみな自分の発言を、後悔してしまう。

フォルカー「いや、姫に興味を持ってもらえて嬉しいよ」

眼鏡をかけ直しながら、フォルカーさんは安心したように微笑んだ。

(フォルカーさん……優しい人なのかも)

そう思って顔を綻ばせ、再度歩き出そうとした時…-。

??「あぁ、フォルカー王子。丁度良いところに」

その声に振り返ると、髭を生やした壮年の男性が私達に近づいてきた。

フォルカー「エリック……何用だ」

途端、フォルカーさんの声色がまた硬さを帯びてしまう。

エリックと呼ばれた男性は、私をちらりと見て軽く頭を下げた。

エリック「姫のご案内中、申し訳ないのですが、この件についてご返答をいただいておきたく……」

フォルカー「……」

フォルカーさんは、無言のままエリックさんから書類を受け取り、即座に目を走らせる。

若々しく聡明な瞳が、素早く文字を追っていた。

そしてすぐに…―。

フォルカー「この記録の重なりを調整し、001から008へ移動させておいてくれ。 ひとまずはそれで問題ない」

エリック「……はい」

フォルカーさんの指示を受け、何故かエリックさんが悔しそうに顔を歪めた。

(どうしたんだろう。問題が解決したはずなのに)

フォルカー「それよりも、この書類には不備があるようだ。この箇所は早急に修正を」

エリック「え……」

フォルカー「このような安易なミスでも、記録のシステムに重大な齟齬を起こす可能性がある。 何故、単純なミスを生むのか……よく考え、即座に改善しろ」

こもっていく怒気に、落ち着かない気持ちで目の前の二人を見てしまう。

エリック「し、しかし今は関係のないことで」

フォルカー「関係ない……? この小さなミスが大きな問題を生むことがどうしてわからない! そんなことでは記録システムの向上、効率化はいつまで経っても実現しない! 責任感も無く、仕事に臨むんじゃない」

語気を荒げるフォルカーさんの迫力に、私は思わず縮こまってしまう。

エリック「っ……わかりました。失礼します」

エリックさんは悔しげな様子で一礼すると、逃げるように立ち去ってしまった。

(……厳しい人なんだ)

先ほど一瞬だけ彼に垣間見た柔らかな雰囲気は、もう微塵も感じられない。

険しさの抜けない顔を見て、話しかけられずにいると……

若い事務官「フォルカー王子! こちらにいらっしゃったのですね。 副官が少しお話しされたいとおっしゃっていて……」

今度は、まだ初々しさの残る青年が駆けてきた。

フォルカー「わかった。〇〇姫、少し失礼する」

〇〇「は、はい……」

フォルカー「部屋へ案内させるよう城の者へ申しつける。ここにいるように」

フォルカーさんは淡々とそう告げると、すぐに踵を返した。

広い廊下を颯爽と闊歩するすらりとした足と伸びた背が、他の誰をも寄せ付けない雰囲気をたたえ、どこか寂しかった…―。 

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