第2話 ディナーの前に

映画の国に新しく建てられた、華々しい巨大テーマパークの入り口で…―。

私は嫌な予感が外れることを祈りながら、恐る恐るウィルさんに問いかけた。

○○「あの、そのアトラクションの元になった新作映画って……」

ウィル「なんと、最新作なんだ! タイトルは『グレータウンの沈黙』もちろん……ホラー映画だよ♪」

楽しげに口元を釣り上げて、彼は服の襟元を寛げる。

(やっぱりホラー映画……だよね)

予想通りの答えに、少し顔が引きつってしまう。

ウィル「あれ? 反応が薄いな。君のことだからもっと怖がってくれるかと思ったんだけど?」

意外そうに、ウィルさんが私の顔を覗き込む。

ウィル「もしかして……ホラー映画が苦手なのは克服しちゃったとか?」

○○「苦手とまではいきませんが、怖いものは今も怖いです」

ウィル「あ、そう! ならよかった、一安心」

眼鏡の奥の彼の瞳が、きらきらと輝き出した。

ウィルさんが眼鏡の淵に指をかけながら、私をじっと見る。

(また……嫌な予感が)

ウィル「ま、君が僕のアトラクションを見てどんな素敵な反応を見せてくれるかは、後々の楽しみにとっておくよ。 クライマックスには、ふさわしいシーンが必要だからね」

そう言って、ウィルさんは私に手を伸ばす。

ウィル「じゃ、僕がパークを案内するよ」

その綺麗な所作に、先ほどまでの予感を忘れてしまいそうになる。

○○「あ……はいっ」

疑うことなく、自分の手を重ねたその瞬間…―。

○○「!?」

ぬるりとした感触に目を剥けば、彼に触れた私の手のひらが赤く濡れていた。

○○「何!?」

あまりに鮮烈なその色に思わず背筋が寒くなる。

ウィル「あー……さっきアトラクションのセッティングで使った血糊がついてたみたい。 ごめんね、○○。でも今の表情、最高に良かったよ!」

謝ってはいるけれど、その唇には隠し切れない笑みが浮かんでいる。

(先が思いやられる……)

ウィル「おっと、レディの手を汚したままにしちゃ紳士の名折れだね」

彼はポケットから取り出したハンカチで汚れた私の手を丁寧に拭いてくれる。

(悪い人では、ないんだけど……)

ウィル「僕のアトラクションは……アトラクションっていうより、レストランなんだけど。 まだディナーには早いし、気を取り直してパークを一緒に回ろう」

こうして私はウィルさんと広いパークを回ることになったのだった。

けれど…―。

ウィルさんに連れて来られた場所は見るからに恐ろしい場所だった。

墓地のような広場の奥の方に、幽霊屋敷じみた廃墟も見える。

○○「あの、ここは……」

ウィル「ん? 僕のレストランのあるテラーゾーン。どう? なかなか素敵な場所でしょ。 もちろんセットのデザインを描き起こしたのはこの僕」

得意げに言って、彼は今にもモンスターの出てきそうな背景を前に笑う。

その時、足元を何か得体の知れないものが高速で這っていった。

○○「っ……!」

心臓が飛び上がり、思わずウィルさんの服の裾を掴む。

○○「い、今のは……!?」

ウィル「さあ、何かな? このゾーンには建設中にホンモノの幽霊が出た……なんて噂もあるからね」

○○「本物って……!」

ウィル「大丈夫。ちゃんとお祓いはしたからね!」

背筋が寒くなり後退りすれば、今度は首元を何か冷たいものが通り過ぎる。

○○「っ……!!」

ウィル「あー……○○、君今のはマズいよ」

○○「え?」

ウィル「……いや、やっぱり黙っておくよ。世の中には知らない方がいいこともあるって言うしね」

○○「そんな……教えてください!」

すがるように、ウィルさんの服を掴む力を強くする。

ウィル「教えなくても平気でしょ? 怖いなら僕が君をこうして抱きしめてあげるから……」

○○「……っ」

愉しげな笑みを浮かべながら、ウィルさんが私の肩を深く抱き寄せる。

急に迫ったその距離に、私の胸はさっきとは違うリズムで音を立て始めていた…―。

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