第6話 来訪者と、事件の始まり

エドモント「もう、スラムの話はやめよう。 それに、あの場所は視察の結果、取り壊すことが決まったんだ」

◯◯「ま、待ってください……」

エドモント「これは決まったことだから。あそこは……危険なんだ」

まるで意地になったように強く言い切るエドモントさんに、私は……

◯◯「エドモントさんは、それでいいんですか……! ?」

言うと、ぴくりとエドモントさんの眉が動いたけれど、

その後すぐに自身を律するように顔を引き締めた。

エドモント「俺の感情ではなく、国にとってどうかを考えるべきなんだ」

◯◯「そんな……」

エドモント「とにかく、そういうことなんだ」

◯◯「でも……エドモントさん、たった今、どうにかしなきゃって言ってたのに」

エドモント「……」

◯◯「助けたいって、思ってらっしゃるんですよね……?」

すがるように彼を見つめる。

けれど決してその目を合わせてくれることはなく……

エドモント「ごめんね……もう決まったことなんだ」

◯◯「あ……」

そう言い捨てると、また、すぐに部屋を出て行ってしまった。

……

それからいくらも経たないうちに、スラム取り壊しの噂は広まったようだった。

城の中にいても、その噂話が耳に入ってくる。

(きっと、街やスラムにも噂は届いてるよね)

(本当にこれで、いいのかな……?)

一人、思案しながら廊下を歩いていると……

(あれ? 城門の方が、すごく騒がしいような)

気になって、城門へ向かうと…ー。

◯◯「あの、どうしたのですか?」

門兵「あっ、◯◯様。 この汚いガキッ……い、いえ、この少年が、どうしても◯◯様にお会いしたいと」

見ると、門兵が小さな子どもを取り押さえていた。

◯◯「あなたは、あの時の…… !」

それは、この国に来て知り合ったスラムの少年だった。

男の子「おねえちゃん!」

私を見ると、門兵を必死で振り払い駆け寄ってくる。

男の子「おねえちゃん、助けて……! おかあさんが……おかあさんがっ……」

◯◯「落ち着いて。一体どうしたの?」

ぽろぽろと涙を流しながら必死で訴える男の子の前に、ひざをつく。

男の子は、私にぐいと白い花を押しつけ、助けて、と泣き枯れた声で叫んだ。

……

男の子の尋常ではない様子に、私はスラムへ向かった。

(行っちゃいけないことはわかってるけど、でも今は……)

駆けるようにして向かった男の子の家に到着すると、

病に伏せり苦しげに咳を繰り返す、男の子の母親が横たわっていた。

男の子「せきが……とまらないの」

スラムの男の子の話によると、母親の咳は数日前から続いているらしい。

もう何日もこのような状態で、かなり体も衰弱しているようだった。

男の子「うっ、ひっく……おねえちゃん……僕、どうすればいいの。 おとうさんもいないし……お薬を買うお金もないんだ……。 おかあさん、ひっくっ、おかあさんっ、どうなっちゃうのかな……」

◯◯「大丈夫、大丈夫だよ」

(まずは……薬を手に入れないと)

◯◯「待ってて。必ず戻ってくるから」

男の子に約束をして、ひとまず私は彼の家を後にした。

一人になり、薬を求め市街地への道を急いでいると……

(え? 誰か、ついてくる……?)

以前も男に何かされそうになったことを思い出し、身震いが起きる。

◯◯「っ!?」

恐怖のせいで駆け出そうとした時、ぐっと腕をつかまれた。

心臓が縮み上がりそうになったけれど……

エドモント「やっぱり……◯◯」

◯◯「え……? エドモントさん?」

振り返ると、城の兵士達を従えたエドモントさんが、驚きの眼差しを私に向けていた。

エドモント「どうして、君がここへ……?」

◯◯「エドモントさん…… !」

安堵感と喜びが一気に膨れ上がって、考えるよりも先に体が動き、彼に抱きついていた。

エドモント「◯◯…… ?」

ぎゅっと彼の体にしがみつくと、ふんわりと背中を両腕で包み込まれ……

それから、ぎゅっときつく抱き締められた。

(よかった……怖かった……)

こんなにも安心できる存在になっていた彼にしがみつきながら、ゆるゆると力が抜けていくのを感じた。

エドモント「怪我は? 大丈夫? 」

◯◯「はい……ごめんなさい」

エドモント「謝るということは、自分が悪いことをした自覚があるのかな?」

◯◯「私……エドモントさんに言われていたのに、街へ来てしまって」

エドモント「そうだね。悪い子だ」

抱き締められたまま優しく背中を撫でられ、それから頭を撫でられる。

エドモント「さて、ちゃんと教えてくれるかな君がどうしてこんなところにいるのか」

互いの体をゆっくりと離しながら、エドモントさんが優しい口調で問いかけた。

◯◯「それが実は……」

スラムの男の子に呼ばれ、病気の母親の様子を見たことを、エドモントさんに話す。

すると……

エドモント「何だって……」

エドモントさんの表情がさっと変わった。

◯◯「エドモントさん……?」

(急に顔色を変えて……どうしたの?)

その時私達はただ必死で、物陰で盗み聞きをしていた大臣に、気づく余裕などなかったのだった…ー。

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