第2話 紅茶と、彼の微笑み

エドモント「……もしかして、市街地に寄ったの?」

エドモントさんの瞳が、惑うように揺れている……

エドモント「いいかい、◯◯。 もう二度と、ひとりで市街地に行ってはいけないよ」

突然のその言葉に、私は……

◯◯「はい、わかりました」

さきほどとは違う、彼の強いそのロ調に、頷かずにいられなかった。

エドモント「うん、いい子だね」

すると、彼はやっと、ふわりとした笑みを戻して微笑んでくれた。

エドモント「さ、この話はもう終わりにしよう。 帰りには使者に送らせるから、君は何も心配しなくていいからね」

私が頷くと、エドモントさんは改めて執事さんに私の座る椅子を引かせた。

◯◯「ありがとうございます」

エドモント「さあ、紅茶を飲もう。君のために用意しておいた一級品だ。 それに今日は、君が持ってきてくれた特別なクッキーもあるし」

ふわりと生まれる、エドモントさんらしい優しい笑み。

口元に笑みを絶やさないまま、彼は長くて綺麗な指先を操って紅茶を淹れていく。

エドモント「さあ、どうぞ」

◯◯「ありがとうございます。いい香り」

それから夕暮れまで、エドモントさんと二人のティーパーティーは続いた。

……

◯◯「すると、紅茶の国はこの国の他にもあるのですね」

エドモント「ああ、各々の国が、独特の紅茶の産地でね。有名なんだよ。 でも、うちがきっと一番美味しいよ」

悪戯っぽく、エドモントさんが笑ってみせる。

彼の優しい雰囲気に、私はいつの間にか時間を忘れ、会話を楽しんでいた。

その時…ー。

大臣「失礼いたします、エドモント様。例の件でお話が……」

恰幅のいい一人の男性がこちらへやってきた。

エドモント「大臣……見てわかるように、今は来客中だ。後にしてくれないか」

大臣「……申し訳ございません。では、また今夜にでも」

と、大臣がテーブルの隅へ視線を向ける。

大臣「おや? この花は」

エドモント「……」

大臣「王子……あまりスラムに肩入れなさいませんよう」

(スラム…… ? )

エドモント「わかっている。これは何でもない。もう下がれ」

大臣は頭を下げると、ホールを出て行った。

◯◯「あの……どういうことですか?」

エドモント「それは……」

彼は憂いを帯びた顔を、そっと伏せた。

美しい顔に、蒼い影が落ちて、そして……

エドモント「この国には、スラム街があるんだ。 君が花をもらったという少年は、恐らくそのスラム街の少年だよ。 その花は、スラムにしか咲いていない花だからね……」

(あの男の子が、スラムの……)

エドモント「けれど、あの地帯も最初から、治安が乱れていたわけではないんだ。 元々は、国政の一環で作られた新興の住宅街で、立派なアパートがたくさん建ってた」

◯◯「そうなんですか……」

エドモント「ああ。けれど、国はスラム化について、見てみぬふりをしている。 本気で立て直すには、かなりの予算を必要とするからと言ってね……。 情けない話だよ」

唇を噛みしめるようなエドモントさんの表情に、胸が軋む。

それに、あの男の子のことも……

◯◯「エドモントさんは……何とかしたいと思っているんですね」

エドモント「ああ……けれど、俺は…ー」

(エドモントさん……?)

悲しそうに顔を伏せる彼に、それ以上問うことはできずに、代わりにそっと彼の手に触れる。

エドモント「……ごめんね。こんな暗い話はやめよう」

エドモントさんは、痛みをかみ殺すような顔で微笑んでくれた。

◯◯「……」

エドモント「ふふっ、ほら、そんな暗い顔をしないで」

重ねていた手を、ふわりと握り締められた。

エドモント「ティーパーティーは楽しめたかな?」

◯◯「はい。とっても」

明るい顔を見せてくれる彼に応えるように、私もにっこりと笑顔を作る。

すると…ー。

エドモント「そう……」

エドモントさんの頬が、かすかに赤くなる。

エドモント「……喜んでもらえてよかった。 せっかく来てくれたんだ。楽しんでいって」

エドモントさんは、この部屋に入ってきた時と同様、優雅にエスコートしてくれた。

けれど…一。

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エドモント「情けない話だよ」

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さきほど見せた、彼の苦しそうな表情に、私の胸は痛んでいた…ー。

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