第6話 瞳の奥に

帰り道…-。

寒さに肩を震わせていた私に、ディオンさんは、美しい絹の羽織を買ってくれた。

〇〇「すみません……こんなに高価なものを」

ディオン「気にするな。女性は甘やかす主義だ。 他に望みは?」

慣れた様子でそう言って、ディオンさんはそっと私の肩を引き寄せる。

ディオン「……何だ、逃げないのか」

(……ディオンさんのこと、もっと知りたいから)

〇〇「あの……望み、言ってもいいですか?」

ディオン「……なんだ」

〇〇「私、ディオンさんのことがちゃんと知りたいです……」

ディオンさんの優しい瞳を覗き込む。

するとその瞳は、突然仮面をかけたように表情を変えて……

〇〇「ん……っ」

ディオンさんは、私の唇を奪った。

ディオン「これが……俺だ」

余裕たっぷりに、ディオンさんが笑う。

ディオン「どうした? 何ならもっと…-」

〇〇「……っ」

瞳から、涙がこぼれ落ちる。

私は何も言うことができず、そのままディオンさんの元を走り去っていった…-。

走り去っていく〇〇の背を、ディオンは見つめ続けていた。

ディオン「それでいい……お前を傷つけたくない。 でも……」

〇〇が去った方へ……ディオンの手が伸ばされる。

その手はすぐに力を失い、ディオンは力なくうなだれた…-。

その夜…-。

(少し、ディオンさんの心に近づけたと思ったのに……)

(それに……どうして、ディオンさんの方が悲しそうな顔をするの?)

思い出すと、また涙があふれてきてしまう。

その涙を拭った時……

ディオン「〇〇……開けてくれないか。 話を聞いてくれ」

扉の外から、ディオンさんの声がする。

ディオン「悪かった」

私はそっと、扉を開けた。

〇〇「どうぞ」

ディオンさんは、静かに部屋に入ってくる。

部屋に入ってからしばらく、黙ったまま窓の外を見つめていたディオンさんが、大きく息を吸う。

ディオン「うちの国と天の国の事情は知ってるな」

〇〇「……昔は一つの国だったけど、今は別々の国で、冷戦状態が続いてる……ってことですか?」

大きく頷くと、ディオンさんは続ける。

ディオン「俺は子どもの頃、天の国の王子・セフィルと友達だった。 お互いの身分を知らずに出会ったんだ。 10歳の時、形ばかりの国交復活祭が行われることになった。 その席で俺はセフィルを見つけて……何の他意もなく駆け寄った。 子どもだったんだ……国の事情なんて知らなかった。 一国の王子同士が公式の場で近付くことの意味がわかるか? それはそのまま、国同士の歩み寄りを意味する。 しかし……あの頃の俺に、そんな重大な責任を負うことは当然できない。 だから、賢かった俺の乳兄弟……メイレーンの子・レインは、セフィルと俺の前に立ちふさがった。 冷戦状態にある国同士が、何の相談もなく手を取り合ってはいけないと知っていたんだ。 そして……臣下が主の行動を拒んだとして、不敬罪で処刑された」

〇〇「そんな……!」

ディオン「俺は、王子である資格なんてない。人殺しなんだよ。 俺が人と深く関わると、きっとまたこういうことが起こる。 適当にしていれば、真面目に俺と向き合おうとする人間は逃げていく……お前のように。 ずっとそうやって生きてきた。 だが……走り去るお前を見て、胸が痛んだ。 欲が出たんだ。 知って欲しいと……お前を知りたいと、思った」

(ディオンさんも、そう思ってくれたの……?)

ディオン「今からでは、遅いか……?」

(これは、ディオンさんの本当の気持ちだ……)

〇〇「遅くなんて……ないです」

かすれる声で答えると、ディオンさんは瞳を閉じた。

ディオン「ありがとう……」

ディオンさんが、私をそっと抱きしめる。

(やっと、会えた……本当のディオンさん)

その温もりは、私の胸をひどく高鳴らせた…-。

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