第3話 ミントの香り

突然に雨が止み、空が晴れ上がっていく…―。

ディオン「ああ、これでゆっくり吸えるな」

嬉しそうに言って、ディオンさんはおもむろに煙管に口をつけた。

(大事な国議に本当に出席しないなんて)

ゆっくりと息をつきながら、少し呆れてディオンさんを見やった。

(あれ……)

ディオンさんは長いまつ毛を伏せ、細く煙を吐いている。

(ディオンさん、やっぱりどこか寂しそうな……)

〇〇「……あの、ディオンさん。大丈夫ですか?」

ディオン「何が?……ああ、俺と二人きりになって大丈夫かってこと?」

ディオンさんは、そう言うと突然私の首の後ろを引き寄せて……

ディオン「……どうだろうな」

耳元でそう囁いて、私の唇を親指でなぞる。

〇〇「……っ!」

ミントの香りの息がかかり、頬が急激に熱をもっていく。

そんな私を見て、ディオンさんはいかにも楽しそうに笑い声を上げた。

(もう、絶対心配しない……っ)

〇〇「私、もう失礼します」

ディオン「また、顔が赤いが。 それがいいだろう。俺に近寄ると、ロクなことがないからな」

(え……?)

(どうしてそんなこと言うの?)

ディオンさんの言葉に、私は思わず立ち止まってしまう。

(でも、心配しないって決めたんだった……)

そうしてその場を立ち去ったけれど……

その日の夢の中にも、ミントの香りが漂っていた。

美しく晴れた翌日…―。

私はディオンさんの案内で、城下街を歩いていた。

(お忍びだから、従者の方もいないし)

(今日は、隙を見せないようにしないと……)

隣を歩くディオンさんから、私は少し距離を取ろうとする。

ディオン「おい、離れるな」

するとぐいっと手を引かれ、ディオンさんのすぐ隣に引き戻されてしまった。

ディオン「うちの国は、そこまで治安がいいって訳じゃない。 一人で歩きたいというのなら、それなりの覚悟があるんだろうな」

(え……?)

周りを見ると、少し怖そうな人達の姿も見える。

〇〇「……ごめんなさい」

私はディオンさんに手をひかれたまま、歩くことになった。

??「おや、ディオン様じゃないか」

そんな時、人のよさそうなおばさまがディオンさんに話しかけてくる。

ディオン「げっ!メイレーン」

(誰……?)

メイレーン「また綺麗な女の子連れて。アンタは一体何人彼女がいるんだい!この大馬鹿者」

(何人彼女が……って)

メイレーンと呼ばれたおばさまは、ディオンさんの耳を引っ張った。

ディオン「いて!メイレーン、違う!こいつはそういうんじゃない」

メイレーン「おや?じゃあ何だい?」

メイレーンさんが、興味津々といった様子で私を見てくる。

ディオン「……客人だよ」

〇〇「は、初めまして、〇〇です」

私は慌てて、メイレーンさんに一礼した。

メイレーン「まあ、ディオン様にお客人なんて!珍しいこともあったもんだ! ディオン様のお客人なら、アタシのお客人も同然だよ! お茶でもいれるから、寄っていきなさい」

ディオン「おい、俺達、予定が……」

ディオンさんの言葉に耳も貸さずおばさまは、ずんずんと歩いていく。

〇〇「ディオンさん、あの方は……」

ディオン「俺の乳母だ……参ったな。 まさか出くわすとは……」

メイレーン「何してるんだい!日が暮れるよ!」

ディオン「……悪い。ちょっと付き合ってくれ」

ディオンさんは、耳を痛そうにおさえて大きなため息をつく。

(何だか、ディオンさん……可愛いかも)

〇〇「はい、もちろんです」

ディオン「ったく、メイレーンのやつ……」

私はにっこりと微笑んで、ディオンさんの後を歩き始めた。

(あ……ディオンさんのミントの香り)

着いた家は城のすぐ近くにあって、たくさんの薬草が庭に生い茂っている。

ディオン「付き合わせて、済まないな」

そう言いながら、メイレーンさんを見つめるディオンさんの眼差しは、とても温かかった…―。

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