第2話 ディオンのつぶやき

しとしとと雨が降り続いている…―。

優しい雨音に、心が安らぐ。

隣を歩くディオンさんは、優雅に木々を眺めている。

ディオン「ああ、香ると思った」

つぶやくように言って、長い腕が木の枝に伸ばされる。

青々と生い茂る葉からは、ミントのような香りがした。

〇〇「わあ、いい香りですね」

ディオンさんの長い指が、その葉を一枚千切る。

ディオン「大分湿ってるな……まあ、いい」

ディオンさんは、手に持つ煙管の先に葉を詰めて、指先で軽く葉に触れる。

指先から鮮やかな火がほとばしり、その美しさに、私はそっと目を細めた。

〇〇「魔法……ですか?」

ディオン「……こんなもん、珍しくもないだろう」

ディオンさんは、そう言うと私の顎をそっと指ですくい上げて…

ディオン「吸ってみるか?それとも……。 残り香のほうが好みか?」

触れるほど近くで、ディオンさんの唇がそう囁いた。

〇〇「……っ」

再び胸が跳ねて、私の腕はディオンさんを遠ざけてしまう。

ディオン「お前、面白いな。 可愛いよ」

〇〇「……!」

自分でもわかるほどに頬が染まっていく私を見て、ディオンさんがクスクスと笑いだす。

ディオン「顔が赤いが。どうかしたか?」

(ディオンさん、私をからかって楽しんでるんだ……!)

執事「ディオン様、そろそろ国議のお時間でございます」

そんなときに執事さんが声をかけに来てくれて、私はほっと息をついた。

ディオン「具合が悪いとでも言っておいてくれ」

執事「ディオン様、またそのような……国王陛下がお待ちでございます」

けれどディオンさんは、執事さんを無視して歩きはじめる。

〇〇「私のことを気遣ってくださっているのでしたら……」

ディオン「……誰も待ってなどいないから、いいんだ」

言葉を遮ったディオンさんの声はとても冷たくて、私は思わず息を飲む。

ディオン「心配しなくても、優秀な兄上や弟達が上手くやってくれる。 できそこないの、人殺しの出番はない」

〇〇「え?」

(人殺し……?どういうこと?)

執事「そのような……」

ディオン「さあ、次はどこへ行きたい? 夢の姫君」

執事さんの言葉を遮り、ディオンさんが私の肩に手をまわす。

〇〇「……っ!」

ディオン「ほらまた。赤くなった」

からかうように言って、ディオンさんは煙管をゆっくりと吸った。

(心配したのに……)

(私、またからかわれたの……?)

執事「ディオン様。失礼が過ぎますぞ」

ディオン「あーもう、うるさい。 第六王子・ディオンはこの度の国議に関する全ての権限を放棄する。 だから国議には出ない……父上にそう伝えろ!」

〇〇「えっあの……!」

私の肩を抱いたまま、ディオンさんが荒い足取りで歩き出す。

頬を濡らす雨がなんだか少し冷たかった…―。

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