第3話 揺らぐ気持ち

穏やかな風が、私とウェルガーくんの間を吹き抜ける…-。

気づけば、私達の周りには先ほどよりも多くの子ども達が集まってきていた。

女の子1「ウェルガー王子、今日はありがとう! とっても楽しかった!」

男の子1「僕も! それに、ライオンさんが引っ張るソリに乗ったウェルガー王子、本当にかっこよかった!」

ウェルガー「そうか……ありがとな! 今日は来てないアニキ達がいるんだけど、兄弟4人が揃ったサーカスは、もっとすごいんだぜ!」

ウェルガーくんの瞳は子ども達に負けないくらい、きらきらと輝いている。

男の子2「今度は全員そろったサーカス見せてよ! そのすごいの、見てみたい!」

ウェルガー「おう! いつか絶対、見せてやるからな!」

(ウェルガーくん、嬉しそうだな……)

その時、少し離れた場所で見守っていた子ども達の親が、彼らを迎えにやって来た。

ウェルガー「それじゃあ、また見に来てくれよな!」

女の子2「うん!」

子ども達の背中が見えなくなるまで、ウェルガーくんは手を振り続けた。

満足そうに微笑む彼を見て、私は……

〇〇「本当にすごいショーだったね。まさか、ウェルガーくん達が宙に浮かぶなんて……」

ウェルガー「だろ? 皆をあっと言わせたかったんだ! もちろん、種も仕掛けもねえからな」

ウェルガーくんが、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

けれど……

ウェルガー「……」

(ウェルガーくん……?)

それまで彼の顔に浮かんでいた笑みが、すっと消えていき……

ウェルガー「サンタ……か」

ぽつりとつぶやかれた言葉に、流れていた空気が変わったのを感じた。

〇〇「……どうしたの?」

私の視線から逃れるように、ウェルガーくんの目が地面へと向けられる。

ウェルガー「お前が教えてくれたクリスマスの話の中に、サンタっていただろ?」

〇〇「うん……」

ウェルガー「……でも、プレゼントを届けてもらえるのは『いい子』だけだって話だったよな」

寂しげに髪を揺らすウェルガーくんに、私は不穏な空気を感じ取った。

ウェルガー「僕はきっと、もらえないよな。 ……いい子じゃないからさ」

〇〇「……!」

ウェルガーくんの言葉が胸に刺さり、息が詰まる。

(それって、もしかして……)

ウェルガーくんは昔、大人達に指示されてある植物を一生懸命育てていた。

皆のためになることだと信じて、ずっと……

(でも、それは人の命を奪う薬の材料だった)

(そしてその薬を巡る争いの中で、チルコの大人達は……)

殺されてしまった大人達や、残された子ども達…-。

ウェルガーくんが抱いている罪悪感を考えるだけで、胸が締めつけられるように痛い。

そんな彼にかけるべき言葉を探していると……

ウェルガー「……なーんてな!」

〇〇「え……?」

ウェルガー「ただの冗談だよ。だから、そんな顔すんなって!」

私の顔を覗き込むと、ウェルガーくんはいつもの明るい笑顔を見せた。

ウェルガー「あっ! 言っておくけど、あくまで冗談だからな! 僕を嘘吐きだなんて言うなよ」

何ごともなかったかのように話すウェルガーくんの様子に、ぎこちなさを感じた私は……

〇〇「うん。ウェルガーくんは、嘘吐きじゃないよ」

(でも……)

ウェルガー「? どうしたんだ?」

黙り込む私を、ウェルガーくんが少し不安そうに覗き込む。

想いが伝わるようにと、私はウェルガーくんの手を取った。

ウェルガー「……!? な、なんだよ。どうしたんだ?」

ウェルガーくんの手には、サーカスの練習やトレーニングによって、いつも傷ができていたけれど……

クリスマス・サーカスのために、さらなる厳しい練習を重ねたのか、その手には、これまで以上にたくさんの傷がある。

(こんなにたくさん努力してるウェルガーくんのところにだって……)

〇〇「ウェルガーくんのところには、きっとサンタは来てくれるよ」

ウェルガーくんの瞳が戸惑うように、大きく揺れ動く。

けれど……

硬く緊張していたその手からは、少しずつ力が抜けていくのだった…-。

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