第4話 彼の笑顔

重厚な扉がゆっくりと開かれ、私達は聖堂内へ足を踏み入れる。

(燭台がたくさんある……)

所狭しと並べられた銀色の燭台に目を奪われると、それに気づいたアディエルくんが満足そうに笑った。

アディエル「いつもはもうちょっと少ないんだけどさ。クリスマスの話を聞いて、準備したんだ。 これ全部に火が灯ったら、夜はすげえ綺麗なんだぜ!」

燭台に並べられたろうそくに、橙色の火が灯る様子を思い浮かべる。

〇〇「是非……見てみたいです」

燭台を眺めながら、幻想的な光景に思いを馳せていると…-。

男の子1「わ~い!!」

突然、開いた入口の扉から、子ども達が二人駆け込んで来た。

〇〇「あ……」

アディエル「……っと!」

子ども達を避けようとしてバランスを崩した私の体を、アディエルくんの腕がしっかりと抱きとめてくれる。

アディエル「こら! 聖堂の中は走るなっていつも言ってるだろ!」

男の子1「わっ! アディエルさまが怒った!」

男の子2「ごめんなさーい!」

子ども達は元気よく声を上げると、飛び跳ねるようにして奥の部屋へ入っていった。

アディエル「ったく、あいつらは……」

アディエルくんに抱えられたまま、私は身動きできずにいた。

力強く私を支えてくれる彼の手に、ドキドキしてしまって……

アディエル「ごめんな、〇〇。怪我ねえか?」

〇〇「は、はい。大丈夫です」

彼の手が離れた後も、胸の高鳴りはなかなかおさまらない。

〇〇「あの……あの子達は?」

鼓動に気づかれないように話題を逸らすと、アディエルくんはふっと口元をほころばせた。

アディエル「楽団の奴らだよ。あいつら、あんなに小さいのにすげえ歌が上手いんだ」

そう言うと、アディエルくんはどこか遠くを見るように目を細めて…-。

〇〇「? アディエルくん?」

アディエル「ああ、ごめん。ちょっと思い出しちまって。 昔、小さな演奏会が開かれることになった時にさ。オレ達も出せって言ったことがあるんだよ。 まだ子どもだったから、『ダルファーだけずるい!』なんてワガママ言って」

当時を思い出しているのか、アディエルくんが懐かしそうに目を細める。

けれど、その瞳にふっと影が落ちて…-。

アディエル「あの頃は……まだルシアンの羽も白くてさ。 ミカエラと、3人で歌の練習とかして……楽しかったな」

アディエルくんは、自分をかばって羽を黒くしてしまったルシアンさんに、強い恩義を感じている。

ルシアンさん自身は、彼に負い目を感じてほしくないと思っているのに……

互いの思いが、上手く噛み合わないでいた。

アディエル「〇〇? どうした?」

その声にはっと顔を上げると、アディエルくんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

〇〇「ごめんなさい、なんでもないんです」

アディエル「……オレのせいかな」

〇〇「え?」

アディエル「ほら。オレ、ルシアンの話ばっかりで」

彼はばつが悪そうに頭の後ろを掻いて、それから…-。

アディエル「けどオレ、お前のこと…―」

私にまっすぐに向き直り、真剣な面持ちで口を開く。

彼の澄んだ深緑色の瞳が、熱をはらんで揺らめいていた…-。

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