第3話 皆のために

アルビトロの街に、空から白い雪がゆっくりと舞い降りてくる…-。

アディエル「〇〇、寒くねえか?」

〇〇「はい、大丈夫です」

私達は聖堂を目指して、雪が積もり始めた街の通りを歩いていた。

アディエル「ならよかった。けど、もし寒かったら遠慮なく言えよな」

彼の笑顔は寒さを忘れるくらい明るくて、心を温かくしてくれる。

けれど、次の瞬間……アディエルくんは少し恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。

アディエル「それと……さ」

〇〇「どうしたんですか?」

珍しくそわそわと口ごもる彼の様子に、思わず首を傾げてしまう。

アディエル「その、聖堂を見終わったらさ。オレと……」

〇〇「オレと……?」

言葉の続きを促すと、彼はさらに顔を赤くして目を伏せてしまい……

アディエル「……ごめん、やっぱりなんでもねえ!」

勢いよくそう言って、顔を背けてしまった。

(なんだろう……?)

何を期待していたのか、気づけば私の胸はトクトクと音を立てていて……

(……無理に聞くのは、良くないよね)

そう自分に言い聞かせながら、そのまましばらく黙って歩みを進めたのだった…-。

……

やがて私達は、荘厳な雰囲気をまとう建物の前にたどり着いた。

雪はいつしか止んで、雲間から光が美しくこぼれている。

アディエル「さ、着いたぞ。ここが聖堂。今回の演奏会の会場だ」

〇〇「すごい……」

門の傍の木はまるでクリスマスツリーのように飾りつけられ、重厚な扉には綺麗なリースがかけられている。

アディエル「ダルファーも楽団引き連れてここで歌ってくれるってさ」

〇〇「そうなんですね。楽団が…-」

清らかな歌声に満ちる聖堂を思い描きながら、私はそっと息を吐き出す。

〇〇「本当に……楽しみです」

アディエル「ああ。期待してくれていいと思うぜ?」

〇〇「でも、そういえばどうして演奏会をしようってなったんですか?」

今さらながらに尋ねると、アディエルくんは表情を引きしめた。

アディエル「今、アルビトロにサーカスが来てることは、お前も知ってるだろ?」

〇〇「はい。チルコの皆の、クリスマス・サーカスですよね」

アディエル「お前がチルコの奴らにクリスマスのことを教えたんだってな。 そのサーカスがすっげえ楽しくてさ。だからオレもなんかしたいなって思って。 この国の皆を喜ばせたいって気持ちで、負けられねえし」

少しおどけたようにそう言うアディエルくんに、私は…-。

〇〇「はい。その気持ち、すごく素敵だと思います」

微笑んで頷くと、アディエルくんは嬉しそうに目を細めた。

アディエル「へへっ……そっか。頑張らねえとな」

そして、リースのかかった聖堂の扉に向き直り……

アディエル「やっぱり雰囲気も出したいから、飾りつけも頑張ってみたんだけど……どうだ? ちゃんとクリスマスっぽくなってるか?」

〇〇「はい。この聖堂を見た時、すごくわくわくしました。 ああ、クリスマスだって思って……」

アディエル「〇〇……」

ふと気づけば、隣に立っているアディエルくんに見下ろされていた。

澄んだ眼差しをまっすぐに向けられ、鼓動がトクトクと速くなっていく…-。

〇〇「アディエルくん……?」

じっと見つめ返すと、彼はハッと我に返ったように私から視線を逸らした。

アディエル「ご、ごめん。なんかつい…-」

〇〇「いえ……」

(胸が……ドキドキする)

騒ぐ鼓動を落ちつけようと息を吸うと、アディエルくんも同じように深呼吸をした。

アディエル「あ……」

また視線がぶつかり合い、そのまま私達は固まってしまう。

けれど、やがて…-。

アディエル「……ははっ!」

どちらからともなく笑いだしてしまった。

アディエル「特別な日、か……」

アディエルくんは笑顔のまま、感慨深そうにつぶやく。

〇〇「え?」

アディエル「クリスマスって、特別な日なんだろ?  それって、本当だなって思ってさ。 ルシアンと一緒に演奏会ができて、それをお前や皆に見てもらえて。 ……贅沢かもしれねえけど、全員を特別な笑顔にしたい」

太陽の柔らかな光が、アディエルくんの笑顔をまぶしく照らす。

(演奏会が……どうか成功しますように)

自分以外の誰かを深く思うことのできる彼の優しさに、私は心打たれていた…-。

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