第3話 鏡の中の二人

たくさんのアトラクションが、人々のまぶしい笑顔を乗せている……

シュテルさんの澄んだ瞳は、目の前いっぱいに広がる光景に輝いていた。

シュテル「どこから行こうか」

〇〇「たくさんあって迷いますね……」

辺りを探すと、ペンキでカラフルに彩られた小さな小屋が目に入る。

(迷路って書いてある! あそこなら、シュテルさんの体にも負担がかからなくていいかも)

……

シュテル「すごいな……全面、鏡張りだ」

大きな鏡に取り囲まれた私とシュテルさんは、同じように目を瞬く。

彼を誘ってやって来た迷路は、鏡の反射を利用したミラーハウスだった。

シュテル「これは脱出するのが難しそうだ」

隣から届くシュテルさんの声色は、やっぱり弾んで聞こえて…-。

〇〇「難しそうですけど……二人で力を合わせれば、きっとゴールできますよね」

シュテル「そういうところ……君らしいな」

迷路を進んでしばらくすると、さらに複雑な合わせ鏡の空間が現れた。

その入り口には、『隠し扉を見つけよう』と書いてある。

シュテル「手分けして探したほうがいいかもしれない」

〇〇「そうしましょう!」

ずっと繋いでいた手をそっと離して、私達はひとつひとつの鏡を確かめていく。

そうして、しばらくすると…-。

シュテル「〇〇、扉があった。 こっちだ。さあ、行こう」

手を差し出してくれている彼が、反射して何重にも見える……

シュテルさんの手を取ろうとしたけれど、触れたのは冷たい鏡だった。

(本物のシュテルさんはどこ……?)

〇〇「すみません、すぐに行きます……っ!」

シュテル「! 大丈夫か?」

〇〇「は、はい。道だと思ったら鏡で……」

シュテル「僕が行こう」

鏡の中のシュテルさんが、懸命に私を探してくれている。

けれど…-。

シュテル「……行き止まりか。 近くにはいるはずなんだが……」

シュテルさんの眉尻が、困ったように下がる。

(どうしたらいいんだろう……)

一向に出会える気配がないことに、焦りが募ってきた、その時…-。

シュテル「……見つけた」

〇〇「!」

不意に後ろから抱き寄せられ、全身を穏やかな体温が包む。

まるで魔法でもかけられたように、体の強張りが一瞬で解ける。

〇〇「よかった……ありがとうございます」

(会えなかったら、どうしようって……)

たかがアトラクションに、自分でも大げさだとは思うのに……

彼の胸元で儚げに煌めく星屑時計を思うと、どうしようもなく不安になった。

(シュテルさんの寿命を示す、星屑時計……)

背中に感じる温かさに胸が締めつけられて、彼の腕の中で顔をそっと伏せた。

シュテル「遅くなってごめん。でも……。 僕は、絶対にどこにも行かない。 たとえ、今みたいにはぐれたとしても……必ず君を見つけ出すから」

安心させるように耳元で囁かれた甘い声に、微かな力強さが混じっている。

シュテルさんは、その想いを込めるように私を優しく抱きしめてくれた。

(温かい……)

彼の体温を感じれば、心のざわめきは柔らかな幸福感に変わるのだった…-。

……

私とシュテルさんは無事に迷路を脱出し、数十分ぶりに青空と再会した。

(難しかったけど……すごく楽しかった)

ミラーハウスでの出来事を振り返ると、自然と頬が緩んでしまう。

シュテル「ミラーハウスが気に入ったのか?」

シュテルさんが、そんな私を不思議そうに見つめていた。

〇〇「ミラーハウスというよりも、一緒に迷って、考えて…-。 シュテルさんのいろんな表情が見られたのが嬉しくて」

シュテル「……そんなことで、君は笑ってくれるのか」

目を見開くシュテルさんに、私は…-。

〇〇「もちろんです。シュテルさんのことなら、どんなことでも」

シュテル「君といると、知らなかった自分の一面を見つけていくようで、少し恥ずかしいな」

涼しげな微笑みで告げられ、少し浮かれてしまっていたことに気がついた。

〇〇「……私ばかり楽しんでしまって、すみません」

シュテル「そんなことはない」

彼の顔を見上げた瞬間、私は思わず息を呑む。

シュテル「僕も、すごく楽しい……初めての経験ばかりで目が回る」

シュテルさんの屈託のない笑みは、陽の光よりもずっとまぶしかった。

(これも、初めて見せてくれる笑顔だ……)

この瞬間を決して忘れないようにしようと、私はシュテルさんを見つめ続けていた…-。

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