第3話 護衛

間者さんに襲われた私を、雷さんが助けてくれた。

その後、女中に命じて私の傷の手当てもしてくれた。

(傷自体は、小さな切り傷だけど・・・・・・)

雷「女の体に傷をつけさせてしまうとは・・・・・・。 しかもお前は、恩人だというのに」

雷さんが、手当の施された私の首元を見て眉をひそめる。

○○「これくらい、本当に小さな傷ですから」

雷「以後、このようなことがないよう、いっそう気をつけよう。 お前には、招いて早々、恐ろしい思いをさせて申し訳なかった」

○○「いえ、私は・・・・・・雷さんが、助けてくれましたし」

雷「まさか城の中にまで、あの男の手が伸びるとは思わず・・・・・・」

(あの男・・・・・・?)

伏せられたまつ毛が、憂いを帯びている。

男性的な凛々しい顔に影が落ちるのを見て、なぜだか胸が痛んだ。

○○「・・・・・・何か心当たりがあるんですか?」

雷「そうだな・・・・・・こうして巻き込んでしまったのだから、事情を少しだけ話しておくが。 さきほど、街に現れたのは賊ではない。 すまないな。国の内情を軽々しく話すわけにはいかず、あのように言った」

○○「そうだったんですね・・・・・・では・・・-」

雷「・・・・・・」

雷さんは一拍置くと、深刻な顔をして続きを話してくれた。

雷「我が国には、いくつかの領がありそれぞれを治める領主がいるのだが。 領主も務める家臣の一人が、策謀を巡らせ、反乱を起こしてしまった」

○○「・・・・・・反乱?」

雷「ああ。独立領にし、新しい国を建国したいのだ。 あの男の己が欲のために、今、我が国の民の安全が脅かされている。 今日は城にまで忍び込み、お前を人質に取ろうとした。 おそらくお前が俺の弱みだとでも思ったのだろう。 真っ先に女に手を出すとは・・・・・・俺はそういったやり方が、一番許せん」

雷さんは、膝の上で強く拳を作り握り締めた。

語られない思いや憤りが、その拳に込められているようで・・・・・・

(雷さんの気持ちが少しでも和らげば・・・・・・)

そう願いを込めて、私は雷さんににっこりと笑いかけた。

雷「○○・・・・・・?」

○○「雷さんは・・・・・・とても真っ直ぐな方なんですね」

瞳を見開いて、雷さんは不思議そうに私を見ていたけれど・・・・・・

雷「堅物だと、周りからは言われるがな」

そう言って笑った彼から、少しだけ力が抜けたように見えた。

(よかった・・・・・・)

雷「しかし・・・・・・城なら安全だと思ったのだが。 すまなかったな」

○○「い、いえっ。そんなに謝らないでください」

(まだ出会って間もないのに、私のことをこんなに気遣ってくれて)

(・・・・・・怖そうな人だと思っていたけれど、とても誠実な人なんだ)

彼の実直な言動に、心を揺さぶられる。

雷「とにかく、城にいても危険なことはわかった。 明日にでも、護衛を多めにつけ、お前を国外へ送り届けよう。 招いたり帰れと言ったり、すっかり振り回してしまった。 それに・・・・・・俺といたせいで、危険な目にも遭わせてしまった。

○○「私なら、大丈夫です。 それよりも、雷さんは大丈夫ですか?」

(私のことを、気にしている場合じゃないと思うけど・・・・・・)

雷「どういうことだ?」

○○「事情を聞いたので、少し心配になってしまって・・・・・・」

雷「女のお前が、俺のことを・・・・・・?」

雷さんが不思議なように、目を見開いて私を見ている。

身構えない無防備なその表情を、初めて見た。

○○「さ、差し出がましかったでしょうか・・・・・・?」

雷「ああ、いや」

軽く首を左右に振った後、雷さんはくすりと笑った。

(あ、こんなふうに笑うの、初めて見る・・・・・・)

雷「この俺が、女に心配されるとはな」

○○「あ、あのっ・・・・・・」

何と返せばよいのか分からず、戸惑ってしまう。

雷「何を動じている。特に怒っているわけではない。 しかし、女にこのような扱いを受けたのは、初めてだ。面白い。 お前は、なかなかおかしな奴だ」

雷さんの目元が緩む。

その優しさが孕んだ笑みに、胸が小さく音を立てた。

(こんなに・・・・・・優しい顔も、してくれるんだ)

雷「よし、では明日まで俺がお前の用心棒になろう。 明日の朝まで、ここで守っていてやる」

○○「朝まで!?」

雷「そうだ。夜明けまでな」

笑みを残しながら、雷さんは真面目な顔で言い切る。

(ど、どうしよう。朝までって・・・・・・)

○○「あ、あの、それは申し訳ないです」

雷「遠慮するな。お前は俺の恩人なのだから」

雷さんはそう言うと、部屋の中にどっかりと腰をおろした。

(雷さんって・・・・・・)

○○「・・・・・・では、ありがとうございます」

雷「恩人を守るのは当然のことだ」

雷さんは満足気な顔で、深く頷いた。

(でも、雷さんがそばにいてくれてよかった)

気づかないうちに、さきほど襲われた時の怖さも、もうほとんど感じてはいなかった。

(雷さんの・・・・・・おかげだ)

その後も私達はぽつぽつと会話をしつつ、夜は更けていったのだった・・・-。

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