第3話 見えない心

その後、稽古場を後にした私は、すっかり懐いてくれたフラフと城内を歩いていた。

――――――――――

〇〇「撫でてあげないの?」

アヴィ「……稽古中だからな」

――――――――――

〇〇「稽古が終わったら、アヴィにいっぱい遊んでもらおうね」

フラフは私の言葉に、わんっと元気良く鳴いた。

その時…―。

〇〇「……っ!」

通りがかった部屋の中から、大きな物音が聞こえた。

〇〇「な、何かな……?」

不安になりながら、半分ほど開いた部屋の扉を開いてみる。

すると……

窓から強い風が吹き込んで、カーテンがはためいていた。

見ると、床には不自然に落ちた、大きな木の板などがある。

〇〇「フラフ、風で倒れたのかもしれないから戻してくるね」

部屋に入り、四角い大きな木の板を持ち上げてみると……

(これは……)

埃にまみれたそれは、古い肖像画だった。

威厳のある国王様と、青紫色の花束を抱えた美しい王妃様。

(弾けそうな笑顔の男の子は……アヴィ?)

男の子も、王妃様と同じ花束を嬉しそうに抱えている。

そして王妃様の隣に寄り添うように、白い大きな犬が描かれていた。

(この犬は……)

その時…―。

アヴィ「おい、こんなとこで何してる」

〇〇「アヴィ!」

振り返ると、稽古を終えたのか、アヴィが部屋の扉に手をかけながら私を見ていた。

〇〇「通りかかったら、中から物音が聞こえて」

アヴィ「物音? それは……」

肖像画に気付いたアヴィの瞳が、驚いたように見開かれた。

〇〇「この絵が、風で倒れてたみたいだから戻した方がいいかと思って」

アヴィ「……いいよ、そんなことしなくて」

静かにそう言うと、私の手から絵画を奪い取って、

裏返した状態で、壁にもたれかけてしまった。

(あ……)

――――――――――

アヴィ「……そんなの、すぐ枯れて終わりだろ」

――――――――――

(あの時と、同じ表情……)

アヴィのその表情に、胸が苦しくなって、私は…―。

〇〇「アヴィ、あの絵とっても素敵だね」

彼の気持ちを、持ち上げたくて、にっこりと笑いかける。

アヴィ「……ああ」

けれど彼は、ますます表情を曇らせてしまう。

(どうしよう……どうしたら、アヴィは笑ってくれるんだろう)

〇〇「アヴィが好きなあのお花を抱えてたひと……お母様でしょ?素敵だね。 白くてふわふわの犬も、フラフに似てるよね。もしかして、フラフのお母さんかな。 あの絵って、アヴィが何歳の時の…―」

アヴィの寂しそうな表情を見たくなくて、なんとか会話を続けようとすると…―。

アヴィ「……か…?」

〇〇「え?」

アヴィ「人の過去を詮索して、楽しいかよ」

私の方を見ることなく、つぶやかれたその言葉が胸に突き刺さった。

〇〇「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて……」

アヴィ「……っ」

突然アヴィが、力をこめた手で絵画を持ち上げた。

アヴィ「絵に残したって、何も意味がない。 死んだら、それで終わりじゃねえか……!」

〇〇「駄目っ! アヴィ…っ!」

絵画を床に叩きつけようとするアヴィを止めるために、思わず彼の体にしがみついてしまった。

アヴィ「……!!」

その拍子に、アヴィがややバランスを崩して棚に体がぶつかると……

棚にあった花瓶が落下し、割れて破片がはじけ飛んだ。

〇〇「痛っ……」

アヴィ「〇〇!」

アヴィの動きが止まる。

絵画を放り投げ、ぎゅっと私の両肩を掴んだ。

アヴィにしがみついていた腕を引きはがされ、視線が絡み合う。

アヴィ「傷が……!」

〇〇「へ、平気だよ!ちょっと足をかすっただけだから!」

アヴィはまるで、自分が傷つけられたかのような顔をしている。

〇〇「大丈夫だよ、アヴィ。そんな顔しないで」

アヴィを心配させたくなくて、にっこりと微笑んでみせる。

アヴィ「……〇〇」

〇〇「本当にごめん。私…―」

アヴィ「わかった。わかったから、まずは傷の手当てだ」

〇〇「あ……」

アヴィに、ふわりと横抱きにかかえられて、頬が熱くなる。

〇〇「ア、アヴィ! 歩けるよ!!」

アヴィ「俺が怪我をさせたんだ。こうしないと俺の気がすまない」

〇〇「……アヴィ……」

アヴィは早足で廊下を歩いて行く。

洋服越しに、アヴィの鍛えられた体の感覚が伝わってくる。

(何を……思ってるの?)

そう問いかけるように、私はアヴィの胸に顔を預けた…―。

<<第2話||第4話>>