第2話 アヴィとフラフ

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アヴィ「……そんなの、すぐ枯れて終わりだろ」

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その翌日…―。

私は、騎士団の剣の稽古を見学させてもらっていた。

アヴィ「はぁっ!」

凛とした掛け声が響き渡る中、朝日に照らされた赤い髪が、きらきら輝いている。

俊敏で無駄のない、優雅な動き。

迫力のある、美しくも見える剣術に私は息を呑んだ。

アヴィ「……次!お前らそんなで、この国を守る騎士団が務まると思ってるのか!?」

アヴィの厳しい声に、兵士さん達が剣を構えるが、アヴィは次々にそれを払っていく。

(本当に、強い……)

アヴィの姿に、思わず見惚れてしまっていたその時…―。

〇〇「……っ!」

ふわりと右手を、柔らかなものがくすぐった。

びっくりして顔を向けると、そこにいたのは……

〇〇「い、犬?」

白くてふわふわの犬が、元気良く尻尾を振りながらこちらを見上げていた。

(お城の犬? 可愛いな)

〇〇「どこから来たの?」

撫でながら見ると、口には木製のブーメランをしっかりとくわえている。

〇〇「あなたの遊び道具?投げてほしいの?」

尻尾が一層激しく揺れる。

(……よし!)

〇〇「ほら!取っておいで!! …あ」

力いっぱいにブーメランを投げたものの、上手く飛ばずにすぐに地面に落ちてしまう。

(ざ、残念そうな顔してる)

犬は、くうん……と悲しげに鼻を鳴らしている。

〇〇「ご、ごめん! もう1回…―」

アヴィ「下手くそ」

〇〇「……っ! アヴィ!」

いつの間にか私の後ろにいたアヴィが、呆れ声でそう言った。

アヴィを見て、犬はふたたび嬉しそうに尻尾を振り始める。

〇〇「ごめんなさい。稽古中にうるさくして」

アヴィ「別に。今は、少し休憩だ。お前、犬が好きなのか?」

〇〇「うん、動物は好きかな。この子、可愛いね」

アヴィは、小さく頷いた。

犬が、アヴィにすり寄って、しっぽを千切れんばかりに振っている。

アヴィ「こいつ、ふわふわだろ。名前はフラフ……この国の言葉で、曇って意味だ」

フラフ、と言った瞬間に、犬は嬉しそうに、わん、と鳴いた。

アヴィの瞳が、切なげにフラフを見つめている。

(アヴィのこんな顔、初めて見た気がする)

その表情に、私は……

〇〇「何かあったの?」

そう声をかけると、ハッとした表情を見せる。

アヴィ「……何でもねえよ」

けれど、フラフを見つめるアヴィの瞳はやっぱりどこか寂しげだった。

フラフは、私の隣に立つアヴィの足に前脚を乗せて、一心不乱に尻尾を振っている。

〇〇「この子、アヴィのこと、すごく好きなんだね。 さっきからアヴィのことしか見てないよ」

アヴィ「……そうか?」

そう言うアヴィの瞳が、どこか遠くを見つめているような気がした。

〇〇「撫でてあげないの?」

アヴィ「……稽古中だからな」

アヴィは一瞬黙った後、まるで、自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。

表情も、いつもの険しいものへと、引き締められる。

アヴィ「じゃあな」

アヴィは、いったん背を向けた後、すぐに足を止めた。

〇〇「?」

そしてくるりと振り返ると、唇の端で小さく笑って……

アヴィ「お前が遊んでやれよ。ブーメラン以外でな」

〇〇「……も、もうっ!」

からかうような言葉だったのに、

固く凛々しい普段の表情にわずかでも笑顔が浮かぶと、とても嬉しい気持ちになる自分がいた。

けれど……

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アヴィ「……そんなの、すぐ枯れて終わりだろ」

〇〇「撫でてあげないの?」

アヴィ「……稽古中だからな」

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アヴィが、私の知らない何かを抱えているような気がして、

私はそれがひどく気になっていた…―。

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