第2話 王族の威厳

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アポロ「この国で俺にできんことは何一つとしてない」

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威武堂々と立ち、アポロ王子は私に、目覚めさせたお礼をしてくれると言った。

(でも、急に言われても……)

アポロ「どうした、早く言わんか」

○○「はい……えっと」

言い淀む私を見て、アポロ王子の眉が吊り上がる。

アポロ「苛々する奴だ。では選べ、二つに一つだ。 富か、美か。貴様はどちらだ」

○○「難しいですけど……強いて言うなら、美でしょうか」

アポロ「強いて言うなら?はっきりしない女だ。おいっ!」

アポロ王子が、苛立たしげに側近らしき人に何かを命じた。

アポロ「我が国フレアルージュの誇る、最上級のドレスと宝石を用意させる」

○○「え……」

アポロ「なんだ、その呆けた顔は」

○○「そんな高価なもの……いただけません」

アポロ「俺を目覚めさせた対価としては、安すぎるくらいだ。 それと……」

不意に、アポロ王子が瞳をすがめたかと思うと……

大股で私の前まで歩みを進め、眼前に立ちはだかった。

(え……?何?)

至極近い距離で、まるで値踏みでもするようにじっと私を見下ろしている。

アポロ「……」

燃える緋色の目が、細められたかと思ったら…

アポロ「姿勢が悪い。背筋を伸ばせ」

○○「っ……!」

アポロ王子の手が突然、私の背筋を滑り抜けた。

否応なしに背を伸ばされ、背中に鋼でも入れられたような心地になる。

アポロ「そうだ、それでいい」

今度は何の前触れもなく、彼の大きな手に顎が掴まれる。

○○「っ……!」

アポロ「顎をもっと引け、顔が呆けて見える。表情も悪い、もっとマシな顔はできないのか」

○○「あ、あの」

アポロ「しゃべるな。表情は、口角を少しだけ上げ、目はしっかりと前を見据える。まばたきは最小限だ」

(今…何をされているんだろう?)

アポロ「聞こえないのか?いい加減、その阿呆のような面をどうにかしろ!」

○○「!」

大きな声に、再び背筋がぴんと伸びる

アポロ「そうだ…やればできるではないか。 貴様はトロイメアの王族として、見目、立ち振る舞い、相応のものにしなけばならない」

○○「王族として…」

アポロ「貴様の態度は、まるでなっていない。俺は、そういう意識の低い奴が一番嫌いだ」

○○「……」

(確かに…アポロ王子と比べると……)

堂々と立つ彼の姿には、王族としての確かな威厳がある。

アポロ「よし。次は…ー」

さらに、アポロ王子が口を開きかけた時だった。

兵士1「あ、あの、アポロ様、お話し中申し訳ございません…」

傍に控えていた一人の兵士が、蚊の鳴くような声で話しかけてきた。

兵士1「そろそろ……国王様、兄王子様達との議会のお時間で…」

アポロ「良い。そのようなもの、出るだけ時間の無駄だ」

兵士1「しかし」

アポロ「貴様…俺の言ったことが聞こえなかったのか?」

兵士1「ひっ…!」

(え…?)

ゆらりとアポロ王子の姿が、陽炎のように揺れた気がした。

次の瞬間…ー

○○「ほ…炎!?」

燃え盛る紅蓮の炎が、彼の腕を取り巻いていた。

アポロ「皆、俺を苛立たせる…」

兵士1「ア…アポロ様、お許しを…っ!」

炎が手の上で爆ぜるように、轟々と音を立てて巨大化していく。

(これは…何!?)

燃えたぎる炎と同調するように、アポロ王子の表情も、憤怒の色を濃くしていった。

兵士1「こ、殺される……!!」

兵士が頭を抱え、丸くなる。

○○「アポロ王子!やめてください……!」

私はとっさに、アポロ王子と兵士の間に飛び込んでしまった。

アポロ「ほう……貴様も一緒に死にたいのか?」

冷徹な声と燃え盛る炎の熱に、体も心も震え出す。

アポロ「そこをどけ」

○○「…どきません」

(どいたら、きっと…)

アポロ「……」

アポロ王子の鋭い視線が、私に突き刺さるけれど…

アポロ「…本当に苛々させる女だ」

やがて、彼の腕を取り巻く炎が消え去っていく。

アポロ「今後、二度と俺の視界に入るな。 明日、早々に帰ることを命じる」

冷たく言い放つと、アポロ王子が私に背を向ける。

(怖かった……)

兵士2「何て、横暴な……」

兵士3「恐ろしい…このままだと、いつか俺も…」

兵士達のつぶやきが耳に滑り込んでくる。

○○「……」

けれど私は…

一度もこちらを振り返ることなく、颯爽と歩いて行く彼の後ろ姿に、

どうしようもなく惹きつけられてしまっていたのだった…ー。

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