第3話 君を乗せているから

動悸は治まらないまま、車は走り続ける。

(アピスさんって、すごく運転が上手)

丁寧な運転に、段々心が落ち着いていく。

アピスさんの腕に掴まらせてもらっていた私は、ふと彼の腕にひどく力が入っていることに気がついた。

〇〇「アピスさん、緊張してますか?」

尋ねると、彼は少し考えるように首を傾げる。

アピス「……まあ、少し」

(やっぱり……)

〇〇「慣れないと、運転緊張しますよね」

アピス「は?」

〇〇「でも、すごく安全運動だし、運転お上手なのに」

アピスさんは、しばらく黙りこんでから、迷ったように口を開く。

アピス「……違うから。 普段は緊張しないし、こんなに気をつけて運転したりしない」

〇〇「え?」

アピス「君を乗せてるからだよ」

〇〇「……っ!」

彼は臆面もなくそう言って、余裕たっぷりにハンドルを切る。

(そんなこと、言ってもらえるなんて……)

瞬きを繰り返す私を見て、アピスさんはふっと笑みをこぼした。

アピス「目にゴミでも入った?」

〇〇「い、いえ」

アピス「じゃあ、まぶしかったかな」

そう言って、彼は日よけを下げてくれた。

〇〇「……ありがとうございます」

胸がいっぱいで、私はそう言うことしかできない。

アピス「うん」

アピスさんは、私の髪をそっと撫でた。

アピス「海、見えてきたね」

〇〇「はい……」

胸の音が大きく響き、私は流れている音楽に必死に意識を集中させる。

〇〇「あ、あの、綺麗な音楽ですね」

アピス「うん」

〇〇「これ、アピスさんの好きな曲ですか?」

アピス「好きなのかな? よく聴くけど」

〇〇「アピスさん、音楽お好きですよね。フルートだって、すごくお上手だし」

アピス「フルートは、母の為にやってた部分もあるから」

〇〇「私、アピスさんの演奏大好きですよ」

アピス「……っ」

〇〇「また聴きたいです」

心を込めてそう言うと、彼は顔を背け、車を止めた。

アピス「……ほら、到着」

見ると、彼の頬が少しだけ赤い。

何だか嬉しくなって、思わず笑ってしまった…-。

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