窓から差し込む陽の光が、城の廊下に温もりを運ぶ…-。
(……いい天気)
(昨日はいろいろあったけど……)
―――――
ジーク『プリンセス、私はあなたに忠誠を誓った騎士。 出会ったあの日からずっと、私の心はあなただけのものです』
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ジークさんの言葉を思い出し、頬がじわりと熱くなる。
火照った頬をあおいでいると、どこからか視線を感じた。
振り返るとそこには……
フレイヤ「……」
(フレイヤさん……!)
フレイヤさんが、鋭い瞳で私を見つめていた。
(そういえば……まだきちんと挨拶できていない)
〇〇「あの…-」
フレイヤ「私はあなたを認めない。だって、お兄様は私の理想の王子様なんですもの。 『乙女への誓い』は……フレイヤがお兄様からもらうんだから!」
〇〇「あっ……!」
フレイヤさんは私を一瞥すると、すぐに立ち去ってしまった。
まっすぐに兄を想う気持ちをぶつけられ、戸惑いに足が動かない。
(フレイヤさん、ジークさんのこと大好きなんだ……)
(ジークさんのことだから、きっと優しいお兄さんなんだろうな)
彼女の気持ちを思うと、胸がひどく軋むのだった…-。
…
……
その日の夜、私はジークさんから誘いを受けていた…-。
ジーク「プリンセス、寒くないですか?」
〇〇「はい、私なら大丈夫です」
月明かりの下で、ジークさんが私を優しく見つめる。
(いつ見ても、綺麗な瞳……)
紫のその瞳を見ると、ついフレイヤさんを思い出してしまう。
表情を曇らせる私に気づいたのか、ジークさんが眉尻を下げた。
ジーク「フレイヤがプリンセスに失礼なことをしていないでしょうか?」
〇〇「え……」
ジーク「改めてあなたに紹介しようとしたのですが、フレイヤの様子がおかしかったので……」
フレイヤさんとの会話を思い出し、私は……
〇〇「いえ、そんなことは……」
どう言っていいかわからず言葉に詰まると、ジークさんが穏やかな笑みを浮かべる。
ジーク「あなたは素直な方ですね」
その微笑みは、私の気持ちをすべてわかっているようで……
(やっぱり、隠せないよね)
私は観念して、先ほどのことをジークさんに話した…-。
ジーク「フレイヤがそんな失礼なことを……申し訳ありません」
ジークさんが心苦しそうにため息を吐く。
〇〇「いえ、そんな! ただ……。 ジークさんは、とてもいいお兄さんなんだなって思いました」
ジーク「え……?」
〇〇「フレイヤさんは、ジークさんのことをとても慕っているようだったので」
一瞬嬉しげに微笑んだ後、彼は困ったように首を振った。
ジーク「騎士として、女性を大切にと教えられてきました。私はただ、その教えに従っただけです。 きっといつか、妹達も自分の愛する人に守ってもらう時が来るでしょう」
突然、ジークさんの瞳が真剣な色を帯びる。
ジーク「私があなたという存在を見つけたように」
〇〇「ジークさん……」
揺るがないその視線に、胸が高鳴っていく。
こぼれ落ちそうなほどに瞬く月の光の中、私達は飽きることなく互いの瞳を見つめ合っていた…-。